ブリタニアスタジアム、ロングボールやロングスローを最大限に生かすために若干狭く作られているストーク・シティの本拠地は、英国らしい激しい風雨と共にマンチェスター・ユナイテッドの面々を待ち構えた。

魔境という言葉が良く似合うスタジアムで、マンチェスター・ユナイテッドを襲ったのはCB2人の負傷退場、先制弾となるFKからのオウンゴール、といった多くの不確定要素だった。

結果ストーク・シティが歴史的な勝利で、赤い悪魔を座敷牢のようなスタジアムに閉じ込めてしまった。

本コラムでは、デビュー2試合目となったフアン・マタと香川真司の「比較的似た」プレーにおける差を比較しつつ、香川真司というプレイヤーの成長のために必要なことについて考えていこうと思う。

今回はどちらかというと「プレー分析」という慣れない部分になるため、筆者にとっても真新しいチャレンジとなる。是非、2人のプレーをゆったりとチェックしながらお楽しみいただけたら幸いだ。

攻撃における差

では、このストーク・シティ戦でのマタのプレーを纏めた動画を見ながら1つ1つ解説をしていきたい。

例えば27 秒からのシーン。フィジカルに劣る選手にとって、厄介となる「相手が近い位置」にいる局面である。簡単にルーニーに当てる手や、下げて一度組み立て直す選択もあったのにも関わらず、積極的にドリブルで持ち運ぶことによって3人の相手を引き付けてからの縦パスを選択。この辺りはプレミアで揉まれてきた選手らしく、フィジカルのぶつかり合いを上手く避けるコース取りを瞬間的に選んでいることが解る。迷わずにワンタッチで持ち運ぶことで相手を飛び込ませず躊躇させ、速攻に繋げていることが解るだろう。2分35秒のシーンも彼らしい。ダイレクトで戻すと見せかけて反転、一気にゴールに向かう意識を見せることで相手のファールを誘っている。

55秒からの一連の流れや、1分43秒のプレーも印象的だ。ここではあえて、相手をギリギリまで引き付けることで隙やスペースを作ろうという意識が見て取れる。何度もパスの後で相手と接触しているのは、そこまでギリギリのプレーを心掛けていることを表しているのだ。ドリブルで少し持ち運ぶことで、あえて「肉弾戦の起こりかねない場面にも敏捷性を利用して飛び込む勇気」が相手DFを引き付け、パスを受ける味方にとってコンマ数秒の余裕を生むこととなる。シュートはダイレクトで打つ意識が強いのも、速度を優先するプレミアで磨かれた技術と言えるだろう。トラップをして正確に狙うというより、相手に捕まる前に打ちこんでしまおうというようなシュートが多い。

これらの差はプレミアで数年間活躍するマタと香川における経験的な差だ。出来る限り安易なボールロストを減らすためにフィジカルでは勝負したくない気持ちもわかるが、香川は時にギリギリの勝負を避けるようなプレーも目立つ。周りが完璧にお膳立てしてくれるチームであればそれでもいいかもしれないが、現在のユナイテッドにとって、組み立て面や崩し面は弱点の1つだ。香川としては周りに上手く崩してもらうことで、自分の強みであるエリア内での巧みなフリーランを生かしたいところだが、それだけではユナイテッドにおいては現状不十分と言わざるを得ない。

ここの差は能力ではなく、単純に経験に起因する部分も大きいだけに、今後香川がマタから盗んでほしいスキルの1つだろう。例えばサンダーランド戦の動画において57秒からのプレーでは、もう1つ引き付けておけばリターンを貰える確率が上がったはずだし、当たり前のように見える1分26秒などのプレーでも相手を引き付けるためにもう少し持ち上がれたはずだ。7分56秒の絶好機でも、欲を言えば1つタメを作るようにボールを運んでほしかったところだ。