生まれ変わったつもりで――。

かつてJ1横浜F・マリノスの下部組織で天才と称されながらも、トップチームではリーグ戦1試合の出場に留まった男が、新たなサッカー人生を歩み始めていた。

その男の名は、和田昌士だ。

昨季限りで当時J2ザスパ群馬を退団した和田が今年向かった先は、アメリカのUSLリーグ1(3部相当)を戦うポートランド・ハーツ・オブ・パイン。

多くの日本人にとって馴染みのないリーグを新天地に選んだ28歳は、「ここが第2章」と新たな挑戦の真っただ中にいる。

(取材・文・構成 浅野凜太郎)

今季よりアメリカでプレーする和田(右、本人提供写真)

ゼロから始めるアメリカ挑戦

10年間のJリーガー生活で得た名声や経験、それらをすべてゼロにしてでも新しい環境に身を置きたかった。

「正直、日本だとそれなりに長くやっていたから、自分のことを知っているスタッフや関係者が増えて、いい意味でも悪い意味でも、ゼロからスタートできないと思いました。でも、アメリカに来たら何もない状態でゼロから始められる」

初の海外挑戦の舞台はアメリカ東北部メイン州ポートランド。レンガの街並みが美しい港町であり、人口は約7万人の小都市だ。和田自身も「この街のことは来るまで知らなかったです」と話すように、決してよく知られた土地ではない。

この街に2023年より創立され、今季よりリーグ戦を戦うクラブこそ、和田が今季より在籍するポートランド・ハーツ・オブ・パインだ。

盛り上がるハーツのサポーター(写真 Getty images)

アメリカのリーグは、アルゼンチン代表FWリオネル・メッシ(インテル・マイアミ)や元日本代表DF吉田麻也(ロサンゼルス・ギャラクシー)らがプレーするMLSとは別に、独立リーグとしてUSLチャンピオンシップ、USLリーグ1、USLリーグ2と分かれており、ハーツは今季より3部相当と言われるUSLリーグ1を戦っている。

「日本からの取材があると思っていなかったので、びっくりしています。MLSは人気になっていますが、このリーグはメジャーではないので」と、USLリーグ1は日本語での実況放送・配信もない。またハーツにとっては、和田が初の日本人選手だ。

まさしく、ゼロからのスタートにはもってこいの新天地である。

「俺は生まれ変わったつもりで、プロ1年目のときだと思ってやろうとしています。言葉や生活もすべて変わるから、ここが第2章のいいスタートだと捉えて、とてもワクワクしているんですよね」と白い歯がこぼれたが、28歳の決断の裏にはいくつもの挫折があった。