17季ぶりのJ1復帰に向けて完璧だったスタートダッシュ。千葉は勢いそのままに走り抜けたかった。
J2第19節終了時点で11勝5分3敗の首位に付けているが、リーグ戦直近5試合は1勝3分1敗と苦しんでおり、5月は3得点しか奪えなかった。また椿自身もゴールから約3ヵ月遠ざかっており、相手チームからの警戒は増している。
J2折り返し地点で逆境を迎えている中、背番号14は原点に立ち返っていた。
サポーターと喜ぶイメージはできている
――改めて千葉の話をさせてください。対策が進められている印象を受けます。
「よく言われますし、もちろん相手は対策をしてきていると思います。でも俺からしたら、対策されていることを意識しすぎて、自分たちで奇麗に崩そうとしているのがハマっていない感覚なんです」
――それはいつからですか。
「前半戦の勝てていた試合も別に攻撃は大してうまくいっていなかった。むしろ『何で勝っているの?』という試合を何回もやってきたんです。だから急にうまくいかなくなった感覚がそもそも自分にはなくて、『ちょっとスカウティングをしてきただけじゃない?』と思っている。
もともと自分たちは昇格候補でもなかったですし、練習試合もキャンプ(のトレーニングマッチ)も勝てなかった。それが首位まで行ったから、周りも自分たちも対策について考えていますが、『いや、もともとこんな感じだったよね』と思っている。むしろそういうゲームをたまたま勝ってきたのだから、ネガティブになる必要はないと考えています」
――では、どうしていくべきだと思いますか。
「監督が練習で『原点に戻ろう。自分たちが磨いてきたことを、やり続けよう』と言ってくれた。自分はとても共感しましたし、慶行さんと考えていることが一緒だと思いました。
それが無理だったときにいろいろと考えればいいし、慶行さんと一緒に3年間で磨き上げた縦に速いサッカーを信じてやらないで、負けるのが一番もったいない。対策をされていようが、自分たちのやりたいサッカーをやる。そこに向かってチャレンジする姿勢が、最近の試合は弱くなってきていると思うので、変えていきたいです」
――椿選手個人としてはいかがですか。
「いまの自分はチームに生かされている側なので、今度は打開策になれるかどうかが、個人としても分かれ目になる。マークが厳しくなったと感じますが、それで消えてしまう選手なら、そこまでの選手です。個人としてレベルアップするためにも、技術を上げるだけだと思います」
――今季にかける想いの強さを感じます。
「3年目なので。ケガで毎年試合に出られなかったし、シーズンを通してサッカーをやれたことがあまりない。今年こそはケガを防ぎたいし、いい競争の輪に入り続けたいんです。
今年の最初から奥さんには『全試合に出たい。そのためのサポートをしてほしい』と伝えていました。自分のせいでいろいろと我慢してもらうこともありますが、今年は本当に勝負の年なんです。その責任が自分にはありますし、今年は覚悟を持っています」
――その上で日本代表を目指す。
「代表の話をしているから『行きたい」と言っていますが、実はそこまでこだわっていないのかもしれません。いまの俺はJ1でジェフがどれだけ勝てるかの方が楽しみなんです。
サッカー選手をやっているうちは、もちろん日本代表に入りたい。でもいまはチームのために、チームのみんなで一緒に上へ行きたい気持ちですし、それが結果的に自分の評価につながればいいと思います」
――サポーターもJ1復帰を期待していると思います。その気持ちに応えたいですか。
「めちゃくちゃそうですね。俺はジェフのサポーターとJ1に上がる瞬間、J1昇格を決める笛が鳴る試合をよくイメージしています。いまはその日のためにやっているので、正直それ以外の欲は本当にない。そのくらい自分はサポーターに助けられていますし、表現するのが難しい気持ちでいっぱいです」
いくつもの挫折を経験し、一度は自分の可能性を疑った男が再び前を向いている。J2屈指のドリブラーは、J1復帰に向けてあらゆる“欲”を捨てて、後半戦に挑む。
J1復帰への機は熟した。J2首位を走るジェフユナイテッド千葉の躍進とラストピースに迫る
インタビュー終了間際、背番号14は「本当にみんなで喜びたいですね」と嚙みしめるように言った。J2で16年目を迎えた千葉の左サイドで輝きを放つ椿が、チームを優勝に導くアクセルを力強く踏んでいる。