譲れない思いがあった

背番号10は量り知れない重圧を抱えていた。専修大時代は気持ちが強く、劣勢であっても冷静に試合へ臨む姿があった。その姿勢はプロになっても変わらず、クールな表情を崩すことなく鋭いドリブルで何度もチャンスを創出してきた。

仙台DF真瀬(左)と対峙する氣田

みちのくダービー前に背番号10は古巣との対決に注目が集まっていたが、決戦前でも「緊張しているようには見えなかった」と、山形の広報スタッフが明かした。

筆者がダービー前にインタビューした際も氣田はクールな面持ちで取材に応じたが、ダービーの話題になれば「自分がネットを揺らす」と自分自身へ言い聞かせるように力強く繰り返した。

その気持ちの強さはレフェリーからPKを言い渡された際に改めて垣間見られた。ペナルティーキッカーに高橋も名乗り出たが、氣田は決してキッカーを譲ろうとしなかった。

背番号10は「お互い『蹴りたい』と言い合いをして、最後に彼(高橋)が『亮真が蹴っていい』と譲ってくれました」とやり取りを明かし、「サッカー選手としてもそうですし、男として逃げ出したくないというのもありました」と信念を突き通してネットを揺らした。

ペナルティーキッカーを高橋(左)から託された氣田

そして「とにかく怖かったです。人生で1番緊張しました。前回(鹿児島戦でPKを)外していますし、古巣相手ですし、いろんな思いがあって…。緊張しましたけど、ここで一つ大きなハードルを越えたかなと思います」と本音をこぼした。孤独の中でプレッシャーと戦いながら有言実行を果たした男は、腫れ物が取れたような表情を浮かべていた。

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チームは勝点23で暫定14位とJ1昇格プレーオフ圏内6位レノファ山口と勝点が11点差離れている状況だ。氣田は「勝ち切って勢いを出したかったです。でもなにかを掴んだきっかけになるゲームになったので、ここから這い上がりたい」と闘志を燃やす。さらなる進化の兆しを見せる期待のアタッカーが、チームを2015年以来10季ぶりのJ1復帰へと導いてみせる。

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