レッドスターのサポーターが「ASローマを挑発した深いワケ」
さて、人工芝グラウンドから隣のマラカナに移動して、レッドスター戦の撮影に。現在の監督はミロシュ・ミロイェヴィッチ、昨年の夏に指揮官となった時は39歳という若さだった。
試合自体は『うんまあ、レッドスター強いですね』という感じで、取り立てて特筆すべき点もないかもしれない。セルビア代表経験もある選手アレクサンダル・カタイの今シーズン12点目を含む3得点でレッドスターの危なげない勝利だった。
しかしリーグ戦のときこそ、レッドスターのゴール裏はにぎやかである。
これがCLやELなどの国際試合となると、最近はお行儀良くコレオなどするようになったが、リーグ戦は未だにやりたい放題。この日はセリエAのローマを派手に挑発していた。当の試合と全く関係がなく、今季対戦してもいないチームをである。
ローマのウルトラス「フェダイン」の横断幕を上下逆さまに掲げ、燃やしている。これはクロアチアの強豪ディナモ・ザグレブに対する強烈なライバル心が絡んでいるらしく、なんにしても広まればかなりの国際問題になりかねないものだ。
20世紀の東欧で栄華を誇ったユーゴスラビアが崩壊して30年。旧ユーゴが「7つの国境、6つの共和国、5つの民族、4つの言語、3つの宗教、2つの文字、1つの国家」と形容されたのは有名な話だが、この多様で複雑な民族事情は、この国に未だ大きな影を落としている。
1990年5月にクロアチアのザグレブで行われたディナモ・ザグレブ対レッドスター・ベオグラードの試合が「旧ユーゴ崩壊のきっかけになった」とも言われるほど、この地域ではサッカーとナショナリズムは切り離せない。
ローマの「フェダイン」は、ディナモのサポータ集団「バッド・ブルー・ボーイズ」からサポートを受けており、それがレッドスターの「デリイェ」には面白くない。
『ディナモの友達はレッドスターの敵』。そういう世界である。
だが、これがこの地域のサッカー文化なのだ。世界中で活躍する大スターたちは、ここから生まれる。
この動画を撮影している間にも、隣の人工芝グラウンドで練習試合が終わったグラフィチャルの選手たちから、「オレの写真をすぐに送ってくれ!」というメッセージがじゃんじゃん届く。いや、私いまマラカナで撮影中だから!
試合の大勢が決まったあと、後半71分から出場したヨヴァン・ミヤトヴィッチ(上写真)。
昨年11月、17歳でELに出場するなど数々の最年少記録を打ち立てている選手である。今シーズン途中までグラフィチャルでプレーしていたので、個人的にもよく知っているが、言動がかなりふてぶてしい(笑)。間違いなく大物になる、と信じたい。
そして、レッドスターはこのあと25日に行われたスーペルリーガ第23節のヤヴォル戦も、アウェイできっちり勝っていた。次節は3月3日、いよいよパルチザンとの「ベオグラードダービー」である。次は世界が注目するこのビッグマッチに潜入しようと思う。