また、選手の性格によっては、通訳の裁量でリフレッシュしてもらうために観光地やブラジル料理店に連れて行く事や、日本でしか経験出来ない事(日本食や相撲観戦、バッティングセンターなど)を提案する事もあります。

何が好きで何が苦手か、子供の有無や妊娠、経済状況や病気、どんな状況にいるかは選手それぞれ千差万別なので、その分だけ違う仕事に出会います。

チームで指定された仕事だけをやるわけではなく、現在のコロナ禍であれば先回りしてマスクやアルコール消毒液を揃えておいたり、感染者状況や予防方法を伝えたりする気遣いも大事になってきます。

同じように、少しずつ出来る事を増やして自立してもらったほうがチームにも本人にも良いという判断であれば、あえて離れるという気遣いの形もまたあると思います。

人生の重要な場面に関わるときは責任感やプレッシャーもありますし、うまくいけば喜びも感じます。

また、色々な経験を共有出来るのは僕の人生にも様々な発見をもたらしてくれます。

※昨季から岡山でプレーするFWレオ・ミネイロ。

ピッチ内の専門性

ピッチ内の通訳に関しては、サッカー競技の理解度と専門用語の習得、そして瞬間変換力が求められます。

通訳というと一括りにされ、どんな場面でも対応出来ると思われがちなのですが、それは半分正解で半分不正解。

実は通訳の中にも専門分野があります。

例えば同じ日本人同士の会話でも、“戦術的ピリオダイゼーション理論”、“ゲームモデル”、“ポジショナルプレーとストーミング”という言葉は、サッカーの戦術論が好きな人には分かっても、一般的な日本人は聞いた事もないはずです。

同じく、“HTML”や“Java”はプログラミング、“エンゲージメント”はSNSマーケティング、“ゼニガメ”はアニメ、執行役員と取締役の違い。

他にも車の細かい備品や法律、医療用語や学会の論文、珍しい生き物の名前。

それぞれの業界用語は、その業界では誰でも知っている当たり前、基本中の基本かも知れませんが、業界外の人間には同じ日本人でも分からない言葉が出てくるはずです。

そういう意味で、通訳する時にその業界への理解度や専門用語の習得度、通訳に合っているかどうかで上手く訳せるかどうかは変わってきます。

「通訳なら何でも訳せる」は、簡単な日常会話なら概ね間違いではありませんが、一方で実は専門分野や得意分野がある事は意外と知られていません。

※MFパウリーニョは今年で来日11年目。