「普段通りは無理」な『みちのくダービー』

昨季は仙台に1分1敗と白星を挙げられなかっただけに、今季は是が非でも白星を奪取したい。

仙台は今季4位と好調であり、一方で山形は直近のリーグ戦で3連敗を喫して4勝5分9敗で15位と下位に低迷している状況だ。

ダービーの勝利がチームのカンフル剤であり、J1復帰を見据えればターニングポイントとなる一戦だ。

絶対に負けられない決戦を控える『ベガルタキラー』藤本は沸々と闘志を燃やしている。

トレーニング中鋭いシュートを何度も見せた藤本

――今季の仙台の印象を教えてください。

「1試合も観たことがないです(苦笑)。これは煽りではく、本当に観たことがありません。だから偉そうなことを言えなくて…。というのも自分の知り合いの選手がいま本当にいなくなっちゃって。なので去年まで何人かいましたけど、いなくなっちゃったので(仙台を)観ていないというのがあります…」

――観ていなかったんですね。

「基本的に仙台に限らず、(相手チームの試合を)観ませんね。ただ相手はチームのほうで分析もやってくれますし、詰め込み過ぎずに、一人、一人選手の特徴をそこである程度把握します。

ウチの選手とここの選手のマッチアップで『こっちの選手に分があるな』とか。だから『クロスが上がってきそうだな』とか。そういう感覚でやっています」

――事前情報によっての思い込みで、例えば相手は足が速いけど、実は足を痛めているから裏を取れないといった誤差やギャップもありますよね。

「そうですね。試合が始まって何も意識しなくてもいろいろなことを観察するようにしています。実際に今年も前の試合は違うやり方だったのに、急に山形の試合だけ前からプレスに来たりといったことが全然ある。

勝つために相手もいろいろな引き出しが多い中で、出してくるという感じですから。観ないことにネガティブな自分の印象はないというか、『観とけば良かった』と思ったことがありません」

フィーリングと観察を重要視する藤本

――個人としてダービーで仙台を上回るとしたら、何が一番必要でしょうか。

「特別な雰囲気になる試合なので。思い切りの良さは大事だと思っています。後は冷静さですね。多分相手もいつもと違う感覚で試合をすると思うんですよ。ダービーの雰囲気でね。だからどっちが冷静であるが最後の局面で問われると思います。冷静さと思い切りの良さなのかなと思っています」

――ホットになりすぎるのは良くないですよね。

「そうだと思います。ダービーに限らず、自分がいいプレーをできるときは、落ち着いているときというか。ちょっと遊び心、余白があるときのほうが良かったりしますから」

――2023年のダービーも左足でのゴールが遊び心がありましたね。

「そうですね。でも思い切りの良さもあったと思います。あのタイミングでキーパーが『タイミングは外れるだろう』と思ってやれたのも、いろいろなことが噛み合っていました。僕に限らずダービーは楽しむことも本当に大事になると思っています。もちろんすごいプレッシャーがあるんですけど、それは当たり前です。その中でどれだけその雰囲気を楽しめて、自分のプレーを各々が出せるかが大事だと思います」

――普段通りやることが難しそうですね。

「いや、普段通りなんて無理ですよ(笑)。僕が経験している3試合からしか言えないですけど、スタンドに青と白、ゴールドがある時点で『普通』は無理ですよ(笑)僕らも普通じゃないというのはもう分かっています。それはホームであろうと、アウェイだろうとあの(青と白、ゴールド)色が出てくる時点で『普通』はあり得ない。他の選手は分かりませんけど、僕は普通通りにプレーしようと思ったことはないですね。無理だと思いますね、普通じゃないから」

「ダービーで普段通りは無理」と笑いながら言い切る藤本

――そこで冷静さを保つのは難しそうですね。

「普通じゃないから楽しもうみたいな感じです(笑)。そっちに(気持ちを)持っていく感じです。普通じゃないというのはいい意味で言っています。『いつもと違うから何かいいことできそうだな』みたいな感じになります」

――ダービー特有の空気なんですね。

「愛媛のときも徳島とも(ダービーが)ありましたけど、近い感覚がありました」

――選手たちにとってもダービーは特別なんですね。

「なんなんですかね(笑)。僕もあまり分からないですけど、ただ普通ではないし、サポーターの方が普通じゃないような空気を作っているじゃないですか(笑)。いつもと明らかに違うんですよ。だから、それはそのまま受け取って、サポーターの想いを僕ら選手が体現するみたいな感じだと思いますよ」

――その中で決めるゴールは格別ですよね。

「2023年のホームの試合以外は勝っていないので、正直そんなに印象もないですね。もちろん特別という感じはありますけど、負けた試合には特に思わなかった。試合後のサポーターの方の悔しがり方、あいさつに行ったときの感じのほうが印象に残っています。『ああ、ダービーはこういうことなんだ』という。試合後の雰囲気も明らかに違ったことが印象にありますね」

――特に去年は、悔しいシーンが目に焼き付いていると思います。イレブンは絶対にそんな思いをサポーターにさせたくないと思います。

「どんな試合をしても勝てばいいというのがダービーだと思います。それをピッチ上のプレーから観てくれている人に伝わるようなプレーをしなきゃいけないと思っています。勝つだけですね。勝つこと以外は求められていないので」

大分戦でゴールを挙げて歓喜する藤本(右から二人目)

――今季の目標と展望について教えてください。

「目標、個人の数字は正直ないです。ただ自分が出た試合では常に結果を残したいと思っています。仮に前の試合で点を取っていようがいなかろうが、次の試合に臨むマインドというかそういうのは自分の中で変えたくない。とにかく目の前の試合を完全燃焼するくらいのつもりでいます」

――あえて数字を設定してしまうと、達成できないと苦しいですよね。

「いや『ケガするかもしれない』と思っているんですよ(苦笑)。ケガをすることもあるじゃないですか。そうなったときに一瞬で20ゴールの目標は無理になります。そうなったときにその1年が無駄だったみたいな感覚に、僕はなりたくないんですよね。

『目標達成できませんでした』と『できた』の2択みたいになるのが嫌なんです。そんなことはないはずです。何があるか分からないし、ケガだけじゃなくて試合に出られなくなることも選手をやっていれば全然あります。

それも含めて、1年の目標をバーンと設定する選手はもちろん素晴らしいですが、僕はあまり先を見ていないです。目の前の試合、自分があと何試合キャリアでやれるかも分からないと思っていますから」

――よくスポーツで「あした引退するかもしれない競技で、あさってのことは喋っても意味がない」といった格言みたいなものがありますね。

「それに近いかもしれないですね。自分が目の前の試合をやれることにまず感謝して、そこにすべてをぶつけることの連続みたいな感じです」

――山形は現在リーグ戦では3連敗と苦しい状況にあります。ただここにいちゃいけないチームだと思っています。J1復帰に向けての青写真を教えてください。

「このタイミングで仙台と試合をやるというのは、きっかけにするにはいいタイミングかなと思っています。ここでどんな形であれ、勝利が求められる試合に勝てれば…。勝つことはやっている選手にとってものすごい自信を与えます。これで勝って、いいきっかけにして、一つずつ順位を上げていきたいという思いがあります」

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『みちのくダービー』最多得点者である藤本は終始リラックスした振る舞いで、決戦前の思いを語り尽くした。決戦に向けた準備はできている。『ベガルタ仙台キラー』の肩書通りの活躍で2季ぶりのダービーの勝ち星を奪い取ってみせる。

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