理想のストライカー像と岡山時代の岐路

山形ではリーグ戦通算19得点を挙げているストライカーは、いかなる場面でも得点を狙える。2023年7月に開催されたみちのくダービーでは右足で2得点、左足で1得点、頭で1得点を決めた。

今季ホーム・大分トリニータ戦で見せた泥臭いダイビングヘッドや、遊び心のある逆足のコントロールシュートなどフィニッシュパターンは多彩だ。

大分戦で藤本が決めたダイビングヘッド弾

前線で多種多様にタスクをこなす様子は明治大の先輩であり、昨季終了後に現役を退いた元山形の万能型FW阪野豊史さんを彷彿とさせる。山形が誇るストライカーが考える理想のFW像を聞いた。

――山形に加入するときは明治大の先輩である阪野選手からアドバイスを受けましたか。

「山形に入るときは連絡はしなかったですけど、豊さんは愛媛(FC)でもプレーしていました。豊さんがプロに入ってから、ちょこちょこ連絡を取ることがありましたね。後は僕が大学1年のときの4年だったので、本当にすごい選手でしたよ。僕は高校生から大学1年になったときに、豊さんを見て、お手本にして大学生活を過ごしました。豊さんが卒業してからも『豊さんだったらこうしていたな』と考えながらやっていました」

山形でエースストライカーとして活躍した阪野さん(Getty Images)

――藤本選手が考える理想のストライカー像を教えてください。

「理想のストライカー像は、相手がどういうやり方できてもゴールを生み出せる選手。また、味方のどの選手と組んでもゴールを生み出せる選手。周りの状況に左右されないというのが理想かなと思っています。なので『これだけできます』では駄目だし、『状況によってはこれもありますよ』という引き出しを増やす部分は全然まだまだですけど、理想を言うとすればそこだと思います」

――見本にされているFWはいますか。

「あまりいないかもしれませんね。もちろん海外の選手の『こういう部分を参考にして』というのはあります。よくゴール集を観ますけど、この選手というのはいませんね」

――例えば海外のFWのワンシーンを取り込む形で、その都度、局面で良かった部分を試してみるイメージでしょうか。

「相手のやり方、そのときのウチのやり方とは毎試合絶対に違います。相手と自分たちの関係の中でのベストな場面のプレーは絶対あるんですよ。ベストが1個じゃなくても、ベターなプレーが2、3個そのシチュエーションごとにあります。それを常に出すというのが理想ですね。

例えばプロに入ったときは『背後に飛び出す』というプレーを自分の武器としてプロで戦いました。それだけだと相手の状況によって良さを出せないし、それを出すために他のこともやれたと考えるようになった。自分でも年々武器が何か分からなくなっているような感じが正直あります。

だから『これが自分の武器です』みたいなものは年々自分でも分からないというのが本音です。でもそれはいろいろな良さがあるということですし、プロになってからでもまだまだ成長できると思っています。『これで俺はプロで飯を食うんだ』で僕はやっていないし、やってこなかった10年ですね」

――著名な絵描きさんが代表する作品がありすぎて、代表作を選べないといったような考え方に近いものがありますね。

「自分でも(引き出しが)いっぱいあるかは分かりません。人によって自分の評価は違うと思っています。自分の長所を語る人のコメントを見ても『あぁ、こう思っているんだ』と。それはある意味、いろいろな良さがあるということの表れでもあると思っています。それはそれでいいとは思っていますけどね」

――先ほど仰っていたベターな選択肢、ベストの選択肢を選べているから、利き足ではない頭、左足と多彩なゴールパターンを持っていると思いました。

「そうかもしれないですし、『自分の武器はこれです』という感じでいくのもすごいことですけど、自分はそれで突き抜けるほどの武器を持っていなかった。岐路に立たされたんですよ。その自分の武器を突き抜けていくほうを目指すのか、いろいろなことをやれるようにするのかで葛藤した時期もありました。

(ファジアーノ)岡山のとき、試合に出られなくなりました。自分のストロングの部分ではスピードや相手の背後に飛び出すところが通用すると最初は思っていましたけど、相手によってそれがあまり必要じゃないときは試合に出られなかった。自分が出ることによって味方の選手の組み合わせが変わったりもしました。

監督が悩ましくなるような要素や、自分ができることが少ないからそうなっていたと僕は分析しています。それだと1年を通してピッチに立ち続けることができないじゃないですか。だったら面白くないなと思って、いろいろなことをやれるように時間がかかってもしようと思いました。それまでトライしてこなかったことにあえてトライし続けて、引き出しを増やすということを常に考えながら何げない練習をやりました。

最後のゴール前のところは自分の感覚を研ぎ澄ますことをやり続けました。いまもその途中にいる感じです。引き出しを増やしながらプレーする感じですね」