岩政監督のスタイルは徐々に浸透も……

岩政体制2年目の今シーズンは、序盤から苦しむも立て直した前半戦。そして、逆転優勝の可能性がありながらも終盤に失速した後半戦とふたつの顔を見せた。

今季限りで退任となった岩政大樹監督だが、志向するスタイルは徐々に根付いていた。特に攻撃においては、ビルドアップから絶対的エース・鈴木優磨を軸とした流動的な崩しが構築されつつあった。

左サイドハーフの仲間隼斗は局面に応じたポジショニングが光り、“影のキーマン”と呼べる活躍を披露。スピードスターの松村優太もゴールに直結する動きが増加し、着実に成長していた。

攻撃の形が見えてきた一方で、悲願のリーグ優勝を達成したヴィッセル神戸と2位の横浜F・マリノスには今季4戦全敗に終わり、リーグ戦は5位フィニッシュ。カップ戦(ルヴァンカップおよび天皇杯)も勝ち取ることができなかった。

岩政監督の退任により、来季の指揮官(※本稿執筆時点で未定)はここ10シーズンで8人目の監督となる。近年の監督交代をまとめると以下の通りとなる。

・2015シーズン:7月下旬にトニーニョ・セレーゾ監督を解任、石井正忠コーチが昇格
・2017シーズン:5月末に石井監督を解任、大岩剛コーチが昇格
・2019シーズン:シーズン終了後に大岩監督が退任(契約期間満了)
・2021シーズン:4月中旬にザーゴ監督を解任、相馬直樹コーチが昇格
・2021シーズン:シーズン終了後に相馬監督が退任(契約期間満了)
・2022シーズン:8月上旬にレネ・ヴァイラー監督が退任、岩政コーチが昇格
・2023シーズン:シーズン終了後に岩政監督が退任(契約期間満了)

特に昨季途中のヴァイラー監督退任は、リリース時点で5位だったこともあり波紋を呼んだ。退任に際して一部ブラジル人選手との不和やマネジメントを巡るフロントとの齟齬などが報じられたが、ザーゴ体制からの相次ぐ監督交代により志向するスタイルは定まらず。

ポゼッションスタイルなのか、それとも縦に速いスタイルなのか。明確な方向性を見失ったクラブは、5年連続でタイトルから遠ざかった。極めて難しい状況で重責を務めた岩政監督には、同情を禁じ得ない。

課題は迷走した監督人事だけにとどまらない。

昨夏に移籍した上田綺世(現・フェイエノールト)の穴がいまだ埋まっておらず、今季のリーグ戦でふた桁得点を記録したのは14ゴールの鈴木のみ(次点は知念慶の5ゴール)。今季の総得点43は2019年からの5シーズンで最も少なかった。

得点数が順位に直結する訳ではないが、やはりゴールは多ければ多い方がいい。

今季のJ1を制した神戸(総得点60)は、MVP&得点王の大迫勇也が22ゴールと別格の輝きを放ったが、10ゴールの武藤嘉紀も随所で活躍を見せた。複数の得点源を用意する重要性が分かる好例だろう。

話を鹿島に戻そう。5シーズン連続で無冠の現状を打破し、来季こそタイトル獲得を実現するためには何が必要なのか。補強面と戦術面の両方から考察していきたい。