戦術的に欧州をリードした「ミシャ式」、Jリーグの可能性
「森保は無能、何もわかっていない」と酷評されるのが選手起用も含めた戦術面だ。
しかし、森保監督が率いたサンフレッチェ広島は2012年から2015年までの4年間で3度のJ1制覇を達成する常勝チームだったことだけでなく、欧州に先駆けて現代サッカーのトレンドである可変システムも採用し、戦術的に優れていた。
それを植え付けたのは、2006年の途中から2011年まで広島を指揮したミハイロ・ペトロヴィッチ監督なのは間違いない。そのJリーグ発の独自の戦術「ミシャ式」はペトロヴィッチ監督が広島を退任後に指揮した浦和レッズと、現在も指揮をとる北海道コンサドーレ札幌へも移植された。
森保監督は広島でペトロヴィッチ監督をコーチとしてサポートし、監督就任後も可変システムを始めとする独特の戦術を踏襲していた。そして、ミシャ式に現在の日本代表でも基本コンセプトとする「良い守備から良い攻撃」を浸透させ、J1の予算規模では中位のクラブを3度の日本一へと導いたのだ。
デフォルトのフォーメーションは[3-4-2-1]ながら、攻撃時は[4-3-3]に近い[2-3-5]の布陣で5レーンを支配し、守備時には「5-4-1」の人海戦術で5レーンを封鎖するのは現代サッカーのベースに則している。
攻撃時にボランチが最終ラインに下がる理由は、ビルドアップできるCBを2枚揃えたいからで、日本代表でそこだけ採用していないのは、CBに冨安健洋や板倉滉、吉田麻也、谷口彰悟などボランチ経験があるビルドアップに長けた選手が揃っていたからだ。
「ミシャ式」は広島がJ2で戦っていた2008年に完成した。当時の欧州ではアンカーが最終ラインに落ちる「サリーダ・ラボルピアーナ」などのグループ戦術が散見されていたが、チーム戦術としての可変システムが一般化したのは、レアル・マドリーがUEFAチャンピオンズリーグ決勝やバルセロナとのクラシコで採用し始めた2014年頃だった。
ミシャ式は欧州に5年以上も先駆けてJリーグに誕生していたのだ。
日本代表のさらなる躍進のためにもJリーグの発展は欠かせない。ミシャ式のような世界をリードする戦術が生まれ、世界中のクラブが有力選手を引き抜きに来るリーグだ。
アーセナルのDF冨安、フランスフルトのMF鎌田大地、フライブルクのMF堂安律らは欧州で育てられたわけではない。Jリーグでプレーしていた選手たちだ。
冨安に限っては所属当時のアビスパ福岡がJ2在籍期間が長く、J1では10試合の出場のみだった。「J2リーガー」から「プレミアリーガー」が誕生するJリーグを、2023年、もっと多くの日本人に観てもらいたい。