(中略)

――宮崎さん、「サカつく」にも『地元を愛し、地元チームを育てる』というテーマがあります。

宮崎 ともに成長していくというか、クラブを大きくしていくと共に、サポーター(ユーザー)側も成長を体験できるといったところをゲームコンセプトの一つにしています。いわきFCさんとも通じる部分があると思っていて、お話を伺っていてもやはり震災直後で、単に勝っていくことではなくクラブの成長をともに実感していくことを大事されていると感じました。

私は湘南ベルマーレのファンですが、初めてスタジアムへ行った時、バックスタンドに商店街のおじちゃんやおばちゃんたちがいて、細かい戦術などを話している姿にビックリしました。なんてリテラシーが高いんだと(笑)。

一緒に育っていくという中で、スポーツの見方を含め生活のルーティーンの一環になっていく。このいわきという土地でも同じようなことが今後生まれていくのかなと考えると、すごく楽しみです。スマホの「サカつく」でもこういった部分はぜひ実現していきたいです。

――大倉社長は、クラブが“ハブ”になることで地域において変わってきたと感じられることはありますか?

「震災復興のために地域を元気にします」という思いもあってクラブを作ったものの、半年くらい経った頃、「僕らが地域を元気にする、というものじゃないな」と気づいたんです。

外様の私たちが突然現れて「あなたたちをスポーツで元気にします」と言っても、もっと苦しいことを皆さん体験されているわけですから。

そこからは、スポーツの魅力やスポーツがもたらす子どもたちへの影響、健康といった視点に変わっていきました。地域の皆さんに最初から100%理解されていたかというと、おそらくそうではなかったと思うんですが、いわきFCが試合で結果を残すことによって伝わっている実感を少しずつ持ち始めました。

たとえば、いつ誰がどういった形で「サポーター」として現れるのだろう?と、私と監督の田村は話していました。今でも覚えていますが、ある日カメラを持った少年が一人ポツンと木陰から練習を見ていたんです。すると、練習の様子がブログやSNSに載るようになって、見に来る人が一人二人と増え始めました。

今ではここのグラウンドで試合を行うと、1,000人以上の人が赤いユニフォームを着て応援してくれています。

また、少し前に居酒屋で呑んでいた時、年配のご夫婦に「大倉さんですよね?」と声をかけられたんです。そこで「いわきFCを作ってくれてありがとうございます。応援できるチームができて、生き甲斐が増えました」と仰っていただいて。この時は本当に作ってよかったと感じました。

突然現れた“非日常空間”で、老若男女問わず皆がユニフォームを着てチームを応援する。私が平日よく行くゴルフ場のキャディーさんなども週末には試合に来てくれるんです(笑)。

もっともっとそういったものを感じてもらいたいですし、サポーターと話していても新しいコミュニティが生まれていると聞きます。私たちも最初は正直どんなふうになっていくのか想像はできなかったのですが、宮崎さんが仰ったような世界が生まれつつあります。

ただ、まだまだいわきFCが本当に好きな層とそうではない層、そしてその間のちょっと迷っている層がいるので、これからどうやってより多くの人たちの心を掴んでいくのかが課題ではあります。

そのためには、“勝利”も必要だと思います。そして『魂の息吹くフットボール』と表現していますが、気持ちが昂る内容のサッカーという商品、それ以外にやっている活動も掛け合わせて、さらに広げていかなければと感じています。