リヴァウドがスパイクに唯一求めたもの

――大禮さんはそれまでは陸上競技シューズを担当していたとうかがいました。陸上とサッカーのシューズ開発における共通点、また逆に、ここは全然違っていたという点はどういったところですか?

共通点は、人間が行うこと。すなわち、陸上もサッカーも人間の動きを徹底的に分析し、人間の動きを最大限に発揮するための設計を行うことが重要です。

異なる点ですが、サッカーという競技と陸上をはじめとした他の競技の客観的な違いとして、まず出足の一歩により得点、失点、反則、退場につながる、すなわち出足の一歩が試合の結果を決定づけてしまう非常に怖い競技であること。また長時間プレーをするため、陸上でいう長距離的要素が必要なことです。前者ではトラクション(地面と靴のグリップ性)が非常に重要となり、後者では長時間高いパフォーマンスを維持する機能(軽量、クッション)が必要となります。

――リヴァウド選手は1999年のバロンドールを受賞するなど、当時世界最高の選手の一人でした。彼がスパイクに求めたものは何でしたか?

「世界最高の選手」であるリヴァウドは、つまりサッカー競技において世界で一番正しい動きをする人です。我々はその選手の動きを徹底的に解析し、シューズ設計に活かせば、そのシューズを履いた方々に世界で一番正しいサッカー動作の動きを提供できると考えていました。

そのリヴァウドが唯一求めたものは、軽量性でした。

※中央の写真右が大禮氏。

――実際にどんなやり取りをしながら『ウエーブカップ』の開発を進めていったのでしょうか?

以下の6つのステップで開発を進めました。

1.リヴァウドの動作(キック、ステップ、ヘディング)を、ミズノ独自のバイオメカニクス手法で「採取」&「解析」。

2.コンセプト(本開発品がユーザーに対し提供する新たな価値)を決定。このプロジェクトでいえば、軽量、クッション&スタビリティ、グリップ性の3つでした。

3.ステップ1のデータをもとにステップ2のコンセプトを実現させる設計を見出す。

4.設計されたシューズをリヴァウドに提案。ただし、選手の意見を聞き具現化する「受け身」での開発ではなく、選手の動きをもとに提案する「提案型」開発でした。

5.リヴァウドに実際に履いてもらい官能評価してもらう。

6.その結果をもとに微修正。

――ひとつの製品を完成させるのはやはり大変だと思います。どこが一番苦労しましたか?

ステップ3の設計の部分です。具体的には、インステップキック、インフロントキック、センタリングキック、インサイドキック、ヘディング、ステップ(左右)という6つの動作で様々な足裏データを採取・解析しており、それらすべてにおいて最適となる設計を実現させることに苦労しました。

――スパイクのカラーはなぜあの色(ホワイト×ブルー×イエロー)になったのでしょうか?

リヴァウドが唯一求めていた「軽量」を実現させるため、実際のシューズの質量だけでなく、視覚的にもっとも軽量性を感じられる白のアッパーを提案。ブルーとイエローはブラジル代表のユニフォームカラーから採用しました。