仮説②「ACL敗退という大義名分を利用した」
しかし、ACL敗退がすべての引き金になったという仮説はどうも腑に落ちない。アジア王者の夢を絶たれたとはいえ、昨季は国内2冠及びクラブW杯2位に導いた指揮官である。確かに今季の戦いぶりは不安定な面もあったが、いささか見切りが早過ぎはしないか。
解任後に強化責任者の鈴木満常務は、「選手のポテンシャルを出し切れていない」「選手起用や調整法でズレがあった」と語ったという。このコメントから考えると、「以前から手腕に不満があり、ACL敗退という大義名分を利用して解任した」という仮説に行き着く。急に降って湧いた解任劇ではなく、以前から積もり積もった不満がこのタイミングで形になったという見方である。
思えば伏線はあった。昨年8月に起きた金崎夢生との衝突だ。この件もあって心身ともにダウンした石井監督は直後の試合を休養している。結果的に立ち直ってリーグ優勝・クラブW杯準優勝・天皇杯優勝という栄光を掴んだが、渦中の8月及びシーズン終了後に監督交代の可能性が報じられたように、懐疑論は燻っていたのだ。
「選手のポテンシャルを出し切れていない」という指摘は、どの監督にとっても屈辱的だろう。だが、そう言われても仕方がない側面はある。今季チームに加わったのは、クォン・スンテ、ペドロ・ジュニオール、レオ・シルバ、レアンドロ、三竿雄斗、金森健志といった実力者。この補強を受けた指揮官は、積極的なターンオーバーを慣行。チームの疲労を最小限に抑える策を取った。
しかし、その策が不安定な戦いぶりを生んでしまったのだから皮肉である。新戦力と既存戦力の連携が深まらず、あっさりと負けるゲームが目についた。いつしか粘り強さも影を潜め、負け試合を最低限のドローに持ち込むことができなかった。今季すべての試合で「引き分けゼロ」という事実は重い。
石井監督は決してカリスマ性があるタイプではない。緻密なスカウティングとそれに基づく選手起用で結果を残してきた。特に後半の選手交代で流れを変える術は素晴らしく、“石井マジック”が炸裂した試合は何度もあった。
そのカリスマ性でチームをまとめるジネディーヌ・ジダンではなく、緻密さが売りのマッシミリアーノ・アッレグリ型だといえる。後者のタイプは、実力者揃いのスカッドをマネジメントすることが難しい。
思えば昨年末の躍進は限られた戦力が一枚岩になったことによる産物だった。過酷なスケジュールの中、全員がハイになっていたと言うべきだろうか。充実のスカッドを一枚岩にまとめることができなかった―――。この実態こそクラブ幹部が指摘する“ズレ”につながったと推測する。