綿密で腰の据わった「調査報道」のお手本

この番組の副題は「私とブラッターの15年戦争」、番組を制作したイギリスBBCでのタイトルは "Fifa, Sepp Blatter and Me"。FIFA汚職問題を追い続けてきた記者、アンドリュー・ジェニングスが自ら語る形式で番組が進められました。

世界各地でターゲットのFIFA幹部を追うジェニングスの姿と共に画面に登場するのは、多くの利権をむさぼり、時として殺人すらいとわない、まさに「フットボール・マフィア」の姿を資料として視聴者に見せる姿は、迫真の調査報道でした。そして、ブラジルやアメリカでの議会公聴会を終えたジェニングスに伝えられたのは、遂にブラッターにスイス司法当局の調査の手が入ったという一報。

「FIFAの公式記者会見に入れない世界唯一の記者」が遂に正義の勝利をつかみ、最後に自分の部屋(と模したスタジオ)からブラッターに語りかける場面でこの番組が終わりました。

これだけの年月をかけた調査を行い、証拠を集め、アメリカのFBIすら信頼するほどの情報を持つジェニングスと、それをサポートし続けたイギリスのBBCの熱意は、本当に凄いというのが、視聴後の第一印象です。

サッカーに限らず、どうしてもまだネット専業のメディアは資金力が弱く、人脈も限られています。サッカーでは「東京運動記者クラブ」、他の政治や経済分野でもちゃんと番記者を常駐できる新聞・通信社やテレビ局にはかないません。もちろん、取材対象との距離が近付きすぎる記者クラブ制度には大きな問題があり、そこで「週刊文春」のような雑誌の役割が重要になりますが、幕張メッセを借り切って大相撲を呼び込む「ニコニコ動画」ほどの規模でもない限り、ネットメディアはその土俵にも上がれません。

その中で、Qoly編集部は本当にマニアックなネタまで拾って「独自色」を出す努力を続けていますが、多くの場合は「まとめサイト」になり、新聞や専門誌、さらには信頼性が低い「ガセ」まで飲み込んで、そのコンテンツに寄生する方向へ流れます。安易に儲けるなら一つの手段ですが、そこには「オリジナル」はなく、ネットビューや広告費の横取りによって建設的な「批評」や「提言」をつぶします。

英語版ウィキペディアにあったジェニングスのプロフィールは、高級紙「タイムズ」の日曜版の調査チーム記者として活動した後、BBCでロンドン警視庁の汚職事件を追い、その後はロシアのチェチェン武装勢力などを追った、国際的評価も付いているジャーナリストという内容でした。

もちろん素人が対抗できるレベルではなく、NHKですらこれと比較されるのは大変でしょうが、これだけ骨太で腰の据わった調査報道こそメディアには求められます。微力な私ですが、横暴にも怯まず、ただ事実を明らかにしていくというその姿勢は学びたいと思います。

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