また、「10番」が2人セントラルハーフとして並ぶことの守備的なデメリットは簡単にイメージ出来る部分だと思うが、アッレグリも「2人のセンターハーフは攻撃に意識を向けすぎて、4番だけを中盤にのこすことは避けなければならない」と強調している。
もし「8番」と「4番」が守備の意識を高く持っていれば、状況に応じて柔軟に2ボランチにも切り換えられる。攻守にどのようにアンカーをサポートするか、というのがセントラルの役割を明確化することによって解りやすくなるのだ。
遠藤は「前で仕事するポジションでしょ。後ろに最終ラインの4人とアンカーがいるんでボランチの時よりも攻撃に比重をおいて、点に絡む仕事が求められる」とセントラルハーフについてコメントしているが、「セントラルハーフの分類」をして細かな状況に対処しやすくしたアッレグリと比較すると、やはり戦術的に日本のフットボールがトップクラスには劣っていることが解るかもしれない。ポジションの理解について「イメージ」で終わってしまっていることは1つの問題だ。
セントラルハーフとしてのプレーがそこまで多い訳ではない遠藤と香川は、どこまで細かな面でポジションの役割を理解していたのだろうか。特に守備面での理解の薄さは、チーム全体の守備におけるリスクを加速度的に上昇させた。
実際にUAE戦での失点も、簡単にボールを繋がれて中盤からのパスを出されてしまったことが発端だ。中盤でのプレスを回避されたことでプレッシャーが全くない状態になっており、中盤のメンバー間でのコミュニケーション不足が目立ってしまっている。
どこでボールを奪いに行くのか、を長谷部がしっかりと示し、それに前の2人が従ってこそプレッシングは成立するのだ。
日本のフットボールにおける文脈で余り触れられない部分でもあるが、「MFのヘディングで競り勝つ能力」にアッレグリが言及しているのは面白い。そして、彼はその役割を「4番」ではなく「8番」のものであるべきだと考えている。
しかし、面白いことに日本のメディアは異質なほどに空中戦は「4番」のものだと考えているようなのだ。アギーレ采配下での記事を幾つか見直すと、「4番」だった長谷部の空中戦での競り合いを褒め称える記事が多い。
そもそもアッレグリの論からすれば、「4番」がロングボールに競り合いに行く状況が多いことは良い傾向ではない。実際ユベントスでもロングボールに競り合うのはポグバやヴィダルが多く、ピルロが競りに行くことは多くない。底の選手が競りに出て行った結果、セカンドボールを拾われるような事が起こったら、ピンチになる可能性も高い。
長谷部がロングボールを競っていたのは「本当に褒め称えるべきことだったのか」。メディアのフットボールを見るリテラシーにも、大きな疑問符が付く。