15シーズンに渡って常勝軍団J1鹿島アントラーズを支え続けた遠藤康さんは、2022年に故郷のプロクラブであるJ2ベガルタ仙台に移籍し、昨季に現役を退いた。
引退後はさまざまな活動に挑戦する男は、何を追い求めているのかー。
Qolyは遠藤さんにインタビューを実施。
最終回は仙台への移籍、現役引退、東北人魂を持つJ選手の会の活動、引退後の挑戦について尋ねた。
(取材・文・構成 宇田春一)
満さんが用意してくれた仙台移籍
2021年、鹿島との契約最終年を迎えた。契約が終われば鹿島で現役を引退する意向だった遠藤さんは、当時取締役、フットボールダイレクターだった鈴木満(みつる、愛称マンさん)氏から仙台移籍の話を打ち明けられた。
「マンさんが仙台を用意してくれていました。僕は鹿島で選手を終えようという考えもあったので、『僕は引退しようと思っています』と伝えました。でもマンさんは『(仙台へ)行け』と言うので、『わかりました。 頑張ります』って(笑)。お金であまりいろいろ決めたくなかったので、モチベーションがないと僕は頑張れないと思っていた。地元でなら頑張れるかなと思いましたね」と当時を笑いながら振り返った。
仙台加入当初は鹿島とのギャップに違和感があったという。これまでいた常勝軍団ではタイトル奪取のために、骨身を惜しまない自己犠牲心でチームを支え続けてきたが、仙台に流れる空気は異なっていた。
「ギャップがすごくありすぎて…。鹿島と比べて『何のためにみんなサッカーをやっているんだろう』と。ベガルタのためにみんなやっているのか、よく分かりませんでした。みんな『自分のためにやっているんだろうなぁ』という感じに見えましたね。
自分の身を守るという言い方もあるけど、目標も定かじゃない。そのときはJ2に落ちて、J1へ上がろうという目標があったけど、優勝するためにとか、J1へ昇格するためにだったら、『普通これやんなきゃいけないよね』ということが行われていなかった。
もちろん選手の能力がないからJ2に落ちたというのもあるけど、それ以外のところで僕は絶対に問題があるだろうなと思っていました。チームに入って、『そりゃそうだよな』というのがたくさんあった」と当時の状況を説明した。
仙台を変えるために背中やプレーで見せながら奮闘した遠藤さん。「(現役中に)仙台を昇格させられなかったことは申し訳ない気持ちです」と話すように、仙台は現在もJ2で戦っている。それでも現役中に、遠藤さんは変化の兆しを見ていた。
「ゴリさん(森山佳郎監督)と(庄子)春男さんが入ってきたことは、僕の中ではすごく良かったですね。あの二人が入ってくれたことで、自分の心配事がすごくなくなった。鹿島と仙台の一番の違いは熱量だと思っています。ただ仙台のサポーターの熱量はすごいですよ。そこは尊敬するし、どこにも負けないような熱量がすごくあります。
鹿島のすごいところでいうと、犠牲心などですね。 そこは仙台はすごく足りなくて、どこか自分を守るために、自分のためにサッカーや仕事をしている人がすごく多かった。いまのゴリさん、春男さんはチームが勝つために何をしないといけないのか、それをちゃんと評価しているから、僕はこれから仙台が変わるんじゃないかなと思っています。いい順位にいるので、徐々に結果として出ているんじゃないかなと思いますね」
2023年6月に庄子ゼネラルマネージャーが就任し、翌年には森山監督が招へいされてから仙台は息を吹き返している。鹿島で15シーズン戦った男は、変わりつつある仙台に期待を抱いていた。