研究室での学びがいまに生きる
2018年4月、田中は京都大農学部に進学した。
受験勉強を終え、再び大好きなサッカーができる喜びをかみしめた田中は「合格が決まった三日後ぐらいには(京都大体育会サッカー部の)練習に参加させてもらっていて、現役のサッカー部の人たちと新歓(新入生歓迎会)をして、『一緒にやろう!』と勧誘をしていました(笑)」と、誰よりも早く同大サッカー部に合流して、ともにサッカーをする仲間を募った。
田中は大学1年のときに、東京大との『双青戦(そうせいせん)』に出場。スクールカラーが「青」の名門国立大同士による伝統的なスポーツ定期戦は、両校のプライドと意地がぶつかり合う「勝利以上のものを求める」戦いだ。
この試合に出場したGKは、「かなりバチバチした戦いで、お互いに応援団がついて、すごく盛り上がる試合だった。すごく高揚しながらプレーをさせてもらった記憶はいまでも残っています」と、当時の激闘を振り返った。
同大サッカー部は、学生主体で活動していた。田中は、プレー面や組織づくりで「チームが良くなるためにはどうするべきか」についてチームメイトとともに熟考し、試行錯誤しながら自身の成長につなげた。その経験は、プロサッカー選手となった現在も生きているという。
また、「こだわりを持ったことに対して、とことん追求する人たちが多かった」と言う京都大サッカー部のチームメイトとは、仮説を立てて検証をしてフィードバックをし合うなど、日本有数の名門大らしい方法でサッカーの技術上達を図った。
田中は大学4年のときに、同大農学部の応用生命科学科・発酵(はっこう)生理及び醸造(じょうぞう)学研究室に入り、そこでは微生物や発酵の研究に精を出した。
特に同選手が注力した研究は「微生物を使った持続可能な陸上養殖のための水質浄化技術」についてだ。水を地下水から汲んで、循環して陸上養殖で使っていくと、地下水が枯渇してしまう課題がある。
陸上養殖で地下水を循環利用していくためには、魚のフンなどから発生するアンモニアを除去しなければならない。アンモニアを微生物の力で除去しようとしてつくった製剤の活性を調べる実験などがに、田中は力を注いだ。
この技術は、陸上にある魚の養殖場だけでなく、水族館の水槽や下水処理場などでも活用されている。
福島は『福島ユナイテッドFC農業部』という福島県産物の魅力をPRする活動を行っている。田中個人としても『田中雄大の福島発酵ラボ』というインスタグラムの企画で、福島県の豊かな発酵文化について発信するなど、学生時代に没頭した研究を地域との交流に生かしている。
「微生物などは、アスリートの身体的なところで言うと、腸内細菌がジャンルとしてつながってくる。発酵(した食材)も、体にいい食品があるので、アスリートとして、食などに興味を持てるきっかけになった」と説明した。
また、「実験もたくさんやっていたので、そこで仮説を立てて実験して、それがどうなるのかと考察する流れはサッカーにおいても大事。例えば一つのプレー、キックにしてもそうです。これがどういうフォームで蹴ったらうまくいくのかということを、仮説を立てて実際にやってみて、動画を撮って見比べて検証したり。そういうサイクルをつくる大切さは、実験や研究室の中で教えていただいたことです」と、京都大の研究室で得た学びをサッカーにも生かしている。