男もまた、熱狂にほだされている

日本ではそれほど広く知られていない事件だったが、インドネシアとのアウェイ対戦時はインドネシアサポーターの狂暴性を具体例として挙げる際に『カンジュルハン・スタジアムの悲劇』として事件が取り扱われることがあった。

もしかしたら代表戦で暴動が発生するかもしれない。結果的には何も起こらなかったが、インドネシアでは何が起きてもおかしくないと山本は話す。

「ここ最近はインドネシア代表もすごく力を入れていて(サポーターの熱が)結構熱いと思います。例えばジャカルタのチームにいる日本人の選手は、その試合(日本代表戦)を観に行きましたけど、何かあったら大変なので奥さんは連れて行かなかったり、子どもを連れて行かなかった。だからインドネシアでは何が起こっても不思議ではないと思います」とインドネシアに在住する日本人は警戒していたという。

アウェイ・インドネシア代表戦後に検討をたたえ合う代表イレブンたち

世界中を見渡しても、サポーターがここまで狂暴な地域はそう存在しない。それでもインドネシアでプレーし続ける理由を聞いた。

「契約の面が大きいですけど、さっき言ったサポーターの熱狂はいい面もあります。ヨーロッパに行ってモンテネグロ、セルビアはレベルがすごく高かったけど、サポーターが3、4万人も入るかといったらダービー以外は絶対に入らない。その中でサッカー選手としてやれるのはすごく恵まれていると思う。すごくいい面もあるし、悪い面もあって自分はそれが楽しいです」とインドネシアの熱狂を楽しんでいる。

日本代表戦でも熱狂的な声援を送ったインドネシアサポーター

インドネシアの熱狂は悪い部分がフォーカスされがちだが、選手としては熱狂空間の中でプレーできる喜びがある。サポーターが飛び跳ねる揺れは地鳴りとともにスタジアムが揺れ、絶叫に近いチャントは選手たちの気持ちを熱くさせる。

この空間でプレーできる面白さがあるからこそ、熱狂にほだされた山本はいまもインドネシアでプレーし続けている。

「もうすぐ(出場数が)合計100試合になります。来シーズンも残ってやれたら達成できると思います。キャリアの中で1回は優勝したいです。それはもちろんチームにもよるのでどこでやるか、運も関わってくると思いますけど、もし優勝できたらいいと思っています」と目標を掲げた。

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