“スキッベ流ハイプレス”の仕組み

就任3年目を迎えたミヒャエル・スキッベ監督の下、今季ここまでのリーグ戦で2位につけるサンフレッチェ広島。開幕から4試合で無敗(2勝2分)と好調の要因は、“スキッベ流ハイプレス”にある。

1トップおよび2シャドーがボール保持者にプレッシャーをかけてパスコースを制限し、その動きに連動してダブルボランチと両ウィングバック(以下WB)が取りどころを定めて、複数人で囲んでボールを奪う。獲物を狩るライオンを想起させる獰猛なプレスは、実に効果的だ。

ハイプレスを武器とするチームであれば、複数人で囲む奪い方はスタンダードだと言えるだろう。だが、スキッベ監督率いる広島が異なるのは、「3バックでハイプレスを絶えず仕掛ける」「ハイプレス時の配置が流動的かつ陣形がいびつである」という点だ。

一般的に<3-4-2-1>で守備ブロックを形成する場合、両WBが最終ラインに吸収され、両シャドーが中盤に落ちる<5-4-1>で守る形が基本となる。前線には1トップのみ残る形となり、前から複数人で連動して奪うハイプレスは人数が不足するため、合理的とは言えない。

前線で人数をかけてボールを奪い切り、迫力あるショートカウンターを発動する。ハイプレスの圧力に耐えかねたボール保持者が蹴ったロングボールを回収し、攻撃を優位に進める。これらハイプレスの強み・メリットを最大限生かすには、より前線に選手を配置できる4バックの方が攻守両面で安定するだろう。

だが、広島を見れば、工夫次第では<3-4-2-1>でもハイプレスが可能であることが分かる。スキッベ監督はハイプレス時の配置を流動的にしたうえで、敢えて陣形をいびつにすることにより、独自のスタイルを構築している。

ハイプレスのスイッチを入れるソティリウおよび大橋と加藤は、相手のビルドアップに応じて柔軟に立ち位置を変える。そして、ダブルボランチ(満田&川村)と両WB(中野&東)は、時に自らの持ち場を離れて臆せずにボールを奪いにいく。ボランチとWBが、本来シャドーがいる場所にスライドすることもあるほどだ。

ハイプレスの際は、各選手が持ち場を離れることを厭わず、迷いなくボール保持者にアタックする。敢えて陣形をいびつにすることで、相手が予測できない形で猛烈なプレッシャーをかけることができ、それゆえボール奪取の成功率も上がるのだ。

もちろん、各選手が持ち場を離れることにより、ハイプレスを回避された際のリスクも非常に大きい。高い位置でボールを奪い切れず、相手チームが紫の密集地帯をくぐり抜ければ、その裏には広大なスペースが存在する。高いディフェンスラインの裏を突かれ、あっさりと失点してしまうのが、“ハイプレス型”の宿命でもある。

しかし、独自のスタイルを構築したドイツ人指揮官は、明確な対抗策を周到に用意している。次のセクションで詳しく述べていきたい。