一足先にJデビュー
天皇杯2回戦が行われる神奈川サッカーの聖地・ニッパツに、松尾は仙台大イレブンより一足先に立つことができた。6月29日午後18時に気温21.9度、湿度90%と蒸し暑い中、J2・岡山との試合が行われた。
背番号37はベンチから試合を観戦していたが、出場機会はすぐに回ってきた。前半15分にFW草野侑己が左太ももを負傷。交代選手に呼ばれたのは、入団の内定が発表されてまもない松尾だった。
アップをする間もなく、同18分にデビューの瞬間が訪れた。すぐにすね当てを身につけてピッチサイドに立つと、交替ボードに背番号37が点灯した。だがルーキーは「意外と落ち着いていた。周りが見えていた」と緊急出場にもかかわらず冷静だった。
その強心臓はすぐにプレーに表れた。左サイドでDFヨン・ア・ピンから浮き球パスを受けると、ペナルティエリアに切り込んでクロスを上げた。
「ファーストプレーはいったろ!って」。
クロスはクリアされるも、再びヨン・ア・ピンからパスをもらい、鋭いドリブルを仕掛けた。華麗なダブルタッチでDF2枚をはがしてシュートを放つも、惜しくも相手GKにセーブされた。
この攻めの姿勢がチームに勢いをもたらした。前半41分には素早くMFレアンドロ・ドミンゲスに縦パスを通して、先制点を演出。後半6分にはDF北爪健吾に繋いで、決勝点の起点となった。結果は5―1と大勝劇に一役買ったが「(デビュー戦で)ゴールやアシストをしたかった」と、満足していなかった。
決戦前に会心のプロデビューを飾った。だが「(天皇杯前に)このピッチで試合ができたことは大きかった。ただ…」と、歯切れが悪かった。それはファンの存在だった。
「試合中は周りの声や音が気にならなかったけど、終わってからサポーターの声援に驚いた。応援は選手の後押しになっている。これがサポーターの力かって…。横浜のサポーターの前で、試合をやるのは厳しいと思った」。
これまでプロと練習試合や親善試合で白星を挙げてきたが、公式戦はプロだけでなくファンとも対峙しなければならない。その存在感の大きさを、身にしみて分かった。それでも引くわけにはいかない。
「横浜FCサポーターのみなさまには怖いと思わせたい。この選手怖いなって思ってくれたら、来年は(横浜FCの一員として)心強いじゃないですか」
と燃えていた。