フランス代表は、波乱だらけのW杯でただ1カ国だけ順調なように見える。
オーストラリア戦、ペルー戦、デンマーク戦のいずれも内容には乏しいながら、組み合わせに恵まれてグループリーグを首位通過。決勝トーナメントでは、アルゼンチン、ウルグアイと南米の強豪国を破ってベスト4まで登りつめた。当のフランスが倒したアルゼンチンとウルグアイの他に、優勝大本命と目されていたブラジル、前回優勝国のドイツにEURO2016優勝国のポルトガル、さらには前々回優勝のスペインまで姿を消した大会で唯一強豪国としての矜持を示している点は最大限評価されるべきだろう。
今大会のフランスの武器はキリアン・エンバペという固有名詞に集約される。もちろん、サッカーは11人でやるスポーツで、エンバペだけで勝ち上がってきたわけではないのは筆者も重々理解している。とりわけオリヴィエ・ジルーのポストプレーはエンバペにとって大きな助けになっているし、ブレーズ・マテュイディのバランスワークも今のレ・ブルー(フランス代表の愛称)になくてはならない要素だ。
しかし、フランスの心臓はあくまでエンバペであることに疑問を挟む人は居ないのではないか。彼を語るにおいてもはや年齢は持ち出す必要はないくらいの規格外の怪童は、世界に衝撃を与えたアルゼンチン戦の爆速ドリブルに象徴されるスピードだけの選手ではない。モナコ時代の同僚ラダメル・ファルカオとパリ・サンジェルマン(PSG)でチームメイトのエディンソン・カバーニから盗んだオフ・ザ・ボールの動き、PSGでの“兄貴分”ネイマールを見習ったトリッキーなテクニックやラストパス。さらに、憧れのクリスティアーノ・ロナウドを彷彿とさせる、まるで時間を操るかのような緩急の使い方。クレールフォンテーヌ(フランス連盟の育成機関)で揉まれて育まれた高度な学習能力を活かして先輩たちの技術を盗み、超万能型スピードスターへの階段を駆け上がろうとしている。この年齢のフランス人選手にしては珍しく問題行動もなく、成長のために国内でのプレーを選択する思慮深さも持っている熟達したティーンエージャーは間違いなくフランスのコア・プレーヤー。アントワーヌ・グリーズマンと比較しても、エンバペの方が重要だと断言できるくらいだ。
そのくらいのタレントを擁していても、フランスが優勝すると断言するのは早計だろう。たとえベスト4に与し易そうなチームが揃っていたとしても、だ。むしろ、足元を掬われる可能性の方が高いように感じられる。