ちなみに補足しておくと、スアレスのトラップは簡単なものではない。
というのも、ミリノヴィッチの他にもこちらのサイドには選手が寄ってきていたのだ。
スアレスはこの赤く引いたラインの間へを正確かつスピーディーにトラップする必要があった。プレッシャーを感じながらも狭いエリアでも確実にコントロールするこのあたりの技術も流石である。
そしてトラップからの一連の動きがこれまた早かった。
数えてみるとスアレスは、トラップからわずか6歩でこれだけの距離を移動しフィニッシュにまでいっている。
スアレスがシュートした場所は、決してシュートが簡単なエリアではなかった。しっかりと踏み込めるだけの助走がなく、周囲にも相手選手がいる。いわゆるシュート練習でよくあるような余裕綽々の状態ではなったのだ。
それでもスアレスはシュートを選択した。
選んだキックはトーキック。特別な踏み込みを必要とせず、狭いエリアでも蹴れる技だ。そして、このキックをスアレスは成功させ簡単にゴールを奪うのだ。
この試合を解説していた福田正博氏はこのゴールを見て、スアレスについて「型がない」と形容した。言い得て妙である。
要は、難しい状況でもその場でとりうる最も効率的な手段を選択しているのだ。そこに、スアレスの「好み」や「こだわり」のようなものはない。福田氏が言う「型」とは、そのことだろう。
もちろん、これらのプレーを可能にする技術力の高さも忘れてはいけない。後世に語り継がれるようなスペクタクルなゴールではなかったが、スアレスらしさが凝縮された得点だった。