協会も「世界規準」化へ?
速報レポートをするため、私はFIFA.comを運営しているオランダの「Infostrada Sports」社と打ち合わせをします。その際に言われるのが、「試合開始の60分前までにはスタジアムに入って、30分前には両チームのスタメンや審判団を送ってくれ」というリクエストです。これが世界中のW杯予選での共通ルールです。
ところが、日本担当だけは「ベストは尽くすけど、多分無理」という泣き言が入った、ひどい英語のメールを返してきます。「だって、プレスにメンバー表が回ってくるのが早くても大体30分前で、そこからリストを照合して、正確なデータを打ち込んで送るとなると、ですね……」と。
これは事情が事情なのでやむを得ないのですが、2008年のオマーン戦では試合当日の朝に長沼健元会長の訃報が入り、協会はそちらの対応にも追われたため、向こうに最後のスタメン情報メールを送り終えたのは「君が代」の演奏中でした。
なので、今回は先方も「日本の事情は分かっているので、とにかく可能な限り最速で送ってね」、そして「危ないと思ったら、英文のメンバー表を携帯で取って、画像でこっちに送ってくれてもいいよ」と提案をしてきました。事前に両チームの登録選手一覧は送っているので、とにかくラインアップさえ分かれば向こうで何とかするという判断です。
ただ、代表戦の取材は「記者」と「カメラマン」が厳密に分けられ、場内での写真撮影は厳しく規制されているので、「紙1枚だけ撮らせてもらう特例の交渉か……」と思いながら控室に入ったら、貼ってあったシンガポール代表メンバーのリリースには背番号と「ムハンマド・サフワン・ビン・バハルディン選手は離脱した(なので、カンボジア戦で先発だったこの21番が抜け、あの試合は22人が登録)」という手書きのメモ入り。
さらに、何と18時25分、英文のスタメン表が回ってきました!これなら全く問題なく作業ができます。テキストベースで最後のデータを送ったのは18時40分で、この仕事を請け負ってから初めて、試合前練習やスタンドの様子を、余裕を持って眺められました(苦笑)。
でも、18時55分、つまりいつもと余り変わらない時間に、日本語と英語のスタメン表が回ってきました。そう、もう一度英語。そして、これで今までFIFA.com/Infostrada Sportsや私が困っていたかの謎を解くカギでした。
報道関係者に配られるこの資料は、恐らく一般公開を前提としていないので、ここでは上げません。ただ、私はこれに良く似た紙を前に見ていました。それは武蔵野陸上競技場、横河武蔵野FCの試合です。
横河はJFLなので、当然有料のチケットを買ってスタジアムに入ります。ただ、それとは別に「運営協力金」の募金箱がメインスタンドの正面入口にあり、試合の見所案内などが書かれたガイドを配っていました(2015年もこの方式かは未確認)。募金をした人にこのガイドと一緒に配っていたのが、その試合のメンバー表だったのです。書かれていたのは、両チーム選手の背番号・ポジション・名前・年齢・身長・体重、そして前の所属チーム。そして両チームの平均年齢が入り、これに2人の監督と審判団の名前、試合開始時刻や気温などの基本データが入ったものでした。
埼玉スタジアムの控室に30分遅れで入ってきたのは、ほぼこの書式でした。無かったのは両チームの予想フォーメーションぐらいです。
つまり、今までは自分達のフォーマットでリリースを出すため、名前と番号しか入っていない速報を自分達でチェックして、付加情報を揃えた上で日本語に翻訳したものを配る事が一番重要と考えていたのですが、「とにかく早い球出し」を実現するため、FIFAによる簡素なフォーマットでの即時配布へと方針を変えた協会側の「改革」のおかげで、今回は非常に助かりました。こういう部分でも、協会は世界の流れに付いていくのでしょうか。