こんにちは、駒場野です。
今さらながらのシンガポール戦レポート、長くなったので、後半戦の「その2」に分けました(「その1」はこちら)。
ターニングポイント
シュタンゲ監督が拍手で送り出されてからしばらくして、日本代表のヴァイッド・ハリルホジッチ監督が登場すると、記者会見の雰囲気は一変しました。
FIFAランキングで大きく下回るシンガポール相手にスコアレスでの引き分けは、大方の報道陣にとっても予想外でした。いや、ハーフタイムで私が気付いたように、「ジャラン・ベサールの激闘」が脳裏に浮かびながらも、敢えて口にしなかったのかもしれませんが。
しかし、ハリルホジッチ監督は就任会見と同じように、そして熱気に満ちた言葉でこの試合を振り返ります。
スポーツナビ ハリルホジッチ「非難するなら私」
W杯アジア予選 シンガポール戦後会見
http://sports.yahoo.co.jp/sports/soccer/japan/2015/columndtl/201506160005-spnavi
「19回もチャンスがあったのに決められない試合なんて、私のサッカー人生の中で初めて見た」「槙野が2メートルの所から外してなければ(70分のシュート?)勝っていた」と繰り返しながら、「それでも、こういう試合はカウンターから1点を取られて負ける事が良くあるが、それを防いで勝ち点1を取れたのはとても良かった」とこの試合を前向きに評価しています。
そして、「結果には失望している」が「選手達は全てを出し切った」「非難する言葉は見つからない」と自分のチームを称える言葉を樋渡群通訳と共に激しく伝えた所で、「次が最後の質問になります」と当てられた人が、こう切り出しました。
「一つお願いしたいのですが、最後ではなく、あるだけ質問を受けて下さい。今日は大事な試合だったのです。もちろん監督が良ければの話ですが」
通訳を介してこれを聞いた監督は大きくうなずき、さらにこの記者会見は続く事になりました。
伺った方の名前を書いて良いのかと思いましたが、スポーツナビでは出てましたね。はい、賀川浩を別格にすれば後藤健生と並ぶフリーランスの二大巨頭、大住良之です。
3ヶ月前、ハリルホジッチ新監督を迎えた記者達の眼は、前年からの混乱がスムーズに収束した安心と、アジアカップ敗退からの再建への期待で、非常に温かい物でした。しかし、今回のシンガポール戦に先立つ11日のイラク戦を前にした代表合宿で、監督からの要請として選手への厳しい取材制限がかかった事は、この好意的な雰囲気を一変させたようです。その内容については、これが決められた8日の話し合いの様子と共に、こちらで記事が出ています。
ライブドアニュース 「ハリルホジッチ監督「塩対応」の真意を考察」
http://news.livedoor.com/article/detail/10209926/
「解説者」として技術論や戦術分析を中心に話す元トップ選手や監督経験者は別として、一般の新聞記者やテレビ局のディレクター・アナウンサーは、選手の努力やそれを支える人々に注目した「人間ドラマ」を伝える例が多いです。
このQolyのように、フットボールをカルチャーとして考えていく媒体は、徐々に増えつつありますが、まだまだ少数派です。
そんなスポーツ記者にとって一番大切なのは、代表選手、特にスタープレーヤーとの信頼関係の維持。選手にとっても自分の思いをファンに正しく伝えてくれる「気を許せる仲間」がメディアにいる事は、特に大きな試合の前では重要でしょう。特定の選手にそこまで深入りしない一般紙の記者も、まずは選手の話をベースに戦術などを探り、他紙記者との情報交換もして、スタメンや試合展開の予想を作っていきます。
それが監督の一声で遮断され、「ネタ」を奪われれば、仕事になりません。多くの日は練習内容が非公開、選手の話も聞けないのでは、盛り上げようがないのです。
その不満を半ば代弁したのが、大住のあの制止だったのでしょう。私が言うのもおこがましいですが(Qolyで記者の先輩方の話を書くのはいつもビクビクです(苦笑))、それは40年以上の経験に裏付けられた大局的な取材を続ける彼だからできた話のはずです。
その意味でも、このシンガポール戦は、監督とメディアとの関係も含めての「ターニングポイント」になりました。