このバランス感覚が、カルロ・アンチェロッティを世界屈指の指揮官に押し上げている資質でもある。破綻してもおかしくないギリギリのバランスを保ちつつ、相手をしっかりと観察した上で賭けに出る。相手のフットボールを冷静に判断する一方で、時には大胆に仕掛ける。
虎視眈々とカウンターを狙い、ゲームを決めようとするユベントス相手でもそれはもちろん同様だ。前半、ユベントスは何度となくカウンターを仕掛けたが、恐らくアンチェロッティの「想定内のリスク」だったのだろう。駆け引きの巧さで知られる老獪な「貴婦人」を相手にしても、アンチェロッティと銀河系集団は流れを渡さない。
この場面を見てもらえば解るように、レアルは中盤のラインを非常に高い位置に保っている。
DFラインとMFのラインの間、「ライン間」と呼ばれる部分が広く空いており、ここを使いたくなるのは普通のことだろう。この罠にユベントスを誘い込み、最低限の人数でボールを奪い取る。それが、カルロ・アンチェロッティの策だった。
その策を象徴するのは、中盤の底を支えるクロースの位置取りだ。ここでは結果的にファールになったものの、ヴィダルを潰すために高い位置にまで飛び出しており、中央には広いスペースが出来ている。ここを空けておくことで、相手FWを誘い込もうというのである。
当然、高くまで飛び出したクロースがボールを奪うことに成功すれば、一気にカウンターで勝負を決められる可能性もある。
最も印象的な場面がこれだろうか。空いた中盤をテベスが持ち上がり、非常に危険な場面に見える。
しかし、セルヒオ・ラモスは冷静にテベスの迎撃に出ており、中盤も彼がスピードを落とした瞬間に潰す準備は出来ている。スイーパー的な役割をここで任されているヴァランは半身でモラタを見ており、裏に出されても追いつける位置をキープしている。
勿論、ミスが起これば失点に繋がりかねない場面ではあるが、選手達はこの位置から攻撃されることを覚悟していたのだろう。DFラインは、しっかりと可能性がある崩しを考慮しながら焦ることなく準備を進めている。
仮にここでボールを持ったのがメッシやロッベンであったら、セルヒオ・ラモスをそのまま抜き去って行く可能性すらあるので、この賭けは分が悪すぎるものになるはずだ。