このように、オランダ代表で磨き上げられた3-5-2は、ファン・ハールのチーム・マネジメントに大きな影響を及ぼした。このフォーメーションこそ、彼にとって「若手DFや戦術的理解度の高くない選手」を起用しつつ、同時に「チームのバランスを保つ」方法となる1つのアイディアだったのだ。

「ある程度、経験のある選手になら、多少の無理を聞いてもらうことが出来る」というのも、恐らく理由の1つとしてあるはずだ。キャプテンマークを与えることで信頼を示すことによって、本来は前線でプレーすることを好むルーニーを中盤で起用し、キャリックをCBで使う。若手や全盛期にある選手には難しい注文でも、チームの勝敗で責任を感じる年齢、性格の選手であれば、納得させることは出来る。特にモイーズが指揮していく中で、主将としての責任感に目覚めてきた感のあるウェイン・ルーニーはファン・ハールにとって、コントロールしやすい選手になっているはずだ。

マンチェスター・ユナイテッドは25~28歳の年齢層に多くの主力選手を揃えている訳ではない、ということに先ほども触れたが、「ファン・ハールが望んだ年齢構成にした」、という見方も出来るのかもしれない。

24歳のウェルベック、25歳の香川、26歳のチチャリート、28歳のナニ。中堅世代となり、本来は全盛期を迎えるはずの彼らの放出を許可したことの裏には、オランダ代表で得たアイディアの存在があったのではないだろうか。勿論、戦術的理解度に乏しい部分を持つ選手が多く、かつチームをマネジメントしていく上では障害になりかねない性格の選手たちであったから、ということもあるとは思うが。実際にウェルベックは、モイーズ時代に造反報道があった。

ファン・ハールにとって重要なのは、チームに不和を招かないようなマネジメントだ。「責任感のあるベテラン」、「戦術理解度が高く、求めた仕事をこなせるプロフェッショナル」、「多少プレー機会が少なくても、それをある程度受け入れ、指示にしっかりと従う若手」、そういった構成こそ、最もファン・ハールがマネジメントしやすいものなのだろう。「全ての選手を使いこなすべきだ」という理想論的な言説も理解出来るものの、フットボールの世界は勝てば官軍。結果こそが求められる世界で戦い続けた神をも恐れぬオランダ人は、どんな批判にも揺らぐことはない。

メンバー入りさえ危ぶまれたフェライニに中盤や前線で自由を与えて使いこなし、明らかにまだトップレベルには達していない若きCBを寵愛しながら、それでも上位につける。キャプテンのルーニーと副キャプテンのキャリック、教え子のブリントに「戦術的に難しい仕事」を要求し、経験豊富な両ワイドの「運動量、適切な上下動」で若手CBや、加入したばかりの選手をサポートする。強度の負荷から解き放つことによって、若手CBや新加入選手達が成長する可能性も高まるはずだ。オランダ代表としてW杯を戦っていく中で、明らかに成長した選手達のように。

名将ファン・ハールの力は、こういった長期的視野のマネジメント術にあるのかもしれない。

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