◎「ミネイロッソ」への癒しは「マラカナンにブラジル人」?

では、あとは誰に可能性があるでしょうか。

ここで、今大会で主審に指名された25人のうち、準決勝以降に残った15人と残らなかった10人に分けた上で、その試合数と担当試合、そして後で説明する「平均点」で並べてみました。

<表1>2014年ブラジルW杯の主審の試合数・平均点・担当試合内訳


※イルマトフから西村までの15人が準決勝以降に残った主審、ピタナからオレアリーの10人が残らなかった主審。
チャキルの平均点は、準決勝のオランダ-アルゼンチン戦を除いたもの。
GL=グループリーグ、1R=決勝トーナメント1回戦、QF=準々決勝、SF=準決勝

主審そのものを採点するサイトがなかなか無かったのですが、ドイツのおなじみ「Kicker」は全試合で試合そのものと主審の採点もしていました。そこで、今回はこれで各主審の平均点を出してみました。「Kicker」は最高が1点、最低が6点なので、点が低い方がより良い審判という事になります。

なので、例の準決勝だと、こんな感じ。

ブラジル (4-2-3-1):
Julio Cesar (4) – Maicon (6), David Luiz (5.5), Dante (6), Marcelo (6) – Luiz Gustavo (5.5), Fernandinho (6) - Bernard (5), Oscar (5.5), Hulk (6) – Fred (6)
Sub: Ramires (5), Paulinho(5), Willian (-)

ドイツ (4-1-2-2-1):
Neuer (1) – Lahm (1), J. Boateng (2), Hummels (2), Höwedes (2) – Schweinsteiger (2) – Khedira (1), T. Kroos (1) – T. Müller (1), Özil (2) – Klose (2)
Sub: Mertesacker (3), Schürrle (1)

試合レポートのタイトルも、

"7:1! Entfesselte DFB-Elf demontiert Brasilien
Unfassbar. Historisch. Wahnsinn. Deutschland schlägt Brasilien
im WM-Halbfinale mit 7:1!"

……ドイツ語から英語への機械翻訳を使うと、

「7対1!解放されたドイツイレブン、ブラジルを解体!
信じられない。歴史的。熱狂。ドイツがW杯準決勝でブラジルに7対1で勝利!」

と書いた後に……

"In Worten: Sieben zu eins." (「文字でも書こう、七点対一点」)

という念の入れようでした。

なお、試合自体の面白さには「歴史的スペクタクル、魅力的な90分間」として1点を付けています。

ブラジル対ドイツの試合結果をより明確に伝えたイギリスの『BBC』
https://qoly.jp/2014/07/09/bbc-brazil-vs-germany

主審の話に戻ると、少なくとも「Kicker」はイルマトフに不満を持っているのが分かります。4試合で平均が4.00、例のクロアチア-メキシコ戦と「追試(?)」のアメリカ-ドイツ戦の両方で4.5だった上、残る2試合でも3.5といわば「並」の評価。開幕戦の西村には容赦なく5を付けたように、AFCの主審には全体として厳しい目を向けています。

一方、CONCACAFから選ばれた3人にはどれも比較的高い評価を付けました。あんな試合だったという理由はあるかもしれませんが、イタリア-ウルグアイ以来の登場となったブラジル-ドイツ戦のマルコ・ロドリゲス主審には、誤訳はご容赦願いますが、「双方のチームにも、個人のファウルにも非常に良い裁定を下した、しっかりしたリーダー」として1.5点を付けています。コロンビア-ギリシャやスペイン-チリなどを担当し、この試合では第4審判だったガイガーと共に、少なくともKickerとしては納得のいくジャッジだったのでしょう。ただ、準決勝を担当した以上、決勝も……というのはちょっと考えにくくなりました。

そこで浮上してくるのが、サンドロ・リッシです。準決勝に進んだ4カ国はどこも主審を送っていましたが、KickerではGLのイタリア-イングランドに決勝トーナメント1回戦のコロンビア-ウルグアイの2試合で1.5点だったオランダのビョルン・カイペルスも、GLのコスタリカ-ウルグアイで今大会2度しか出ていない1点を付けられた(もう1試合はオランダ-チリでのベーカリー・ガッサマー(ガンビア))ドイツのフェリックス・ブリヒも、ピタナと同様に最後の候補から外れましたが、ブラジル人のリッシは残されました。

そこに降って湧いたのが、あのミネイロンでの大破局。便乗暴動は論外ですが、ブラジル人の気持ちは一気に冷え切ってしまったようです。それでも、マラカナンで決勝戦はやらなければならないのですが……もしここに、セレソンの代わりにはならないとしても、ブラジル人の審判団がいれば、少しは慰めになるでしょうか?FIFAが政治的判断を下す可能性は、それなりにありそうです。

もちろん、ここまでリッチのジャッジが安定していると評価したから、FIFAが最後の15人に残していたはずです。<表1>の通り、Kickerでの評価も3試合担当者の中では最良の平均2.50点。ただ、担当したうちの2試合がGLでのガーナ戦と決勝Tでのアルジェリア戦という、どちらもドイツの試合(残りは、史上初のゴールライン・テクノロジー使用試合となったフランス-ホンジュラス)。もし決勝も担当すると、選手と主審が互いの傾向を分かっているドイツと、初めてになるアルゼンチンでは不公平か……とも。国際主審になったのが2011年で、昨年のクラブW杯決勝(バイエルン・ミュンヘン-ラジャ・カサブランカ)も担当しましたが、イルマトフと比較すると経験の薄さも気になります。


FIFA公式サイトに掲載されたリッシの肖像。
セットを組む副審のエメルソン・デ・カルバーリョとマルセロ・ファン・ガッセもブラジル人。

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