苦汁の選択から新たなステップへ
昨年に東京Vへ期限付き移籍し、今季から完全移籍で背番号10を託された木村だが、ピッチに立てない時間も続いた。
「『なんで出られないのかな』と矢印が外に向く時間もあったし、自分の中に(矢印を)向けても、チャンスはなかなか来なかった」と葛藤やもどかしさに悩まされていた。
そんな中、名古屋からオファーが届いた。ストライカーとして期待されていた立場ゆえに当然賛否もあったが、これまで以上の結果を求めて移籍を決断した。
「ヴェルディには恩を感じている。去年『サッカー選手としてやっていけなくなるのではないか』という状況から拾ってくれたのも、一人前のプロにしてくれたのもヴェルディ。『なんで10番を背負った選手がピッチにいないんだろう』と批判の声があるのは覚悟の上で、ここで新しい道を選ぶのは逃げではなく、新しいチャレンジだと思った」
試合後、木村は東京Vのゴール裏に駆け寄り、サポーターからの拍手に約5秒の間深く頭を下げた。
「ブーイングも少し聞こえたけど、8、9割くらいの方が拍手をしてくれて、ヴェルディのサポーターはすごく温かかった。このタイミングでチームを離れる選択は、普通なら拍手をできるようなことではないし、申し訳ない気持ちもあった。だからこそ、その拍手を裏切らないよう、自分が選んだ道でもっと頑張らなきゃダメだと思った」
期待もプレッシャーもすべて受け止め、自分の決意を証明しようと、この一戦に全身全霊を注いだ。その姿勢はこれからも変わらず、むしろ『もっと』と欲を増している。
「ピッチに立ったら必ず『このぐらいやれる』と見せようと思って挑んでいた。ヴェルディでやってきたことをここで出しただけ。ヴェルディで学んだことをもっと進化させて、新しい自分の色を出していけるようにまた頑張りたい」と決意を語った。
次戦は16日午後7時にJ1第26節浦和レッズ戦をアウェイで迎える。中2日での敵地連戦とタフな戦いが続く。
木村は「リーグではなかなか勝てていなくて難しい状況が続いているが、気持ちを切り替えて浦和に勝ちたい。総力戦だと思うので、チーム全員で勝点3をしっかり取って、名古屋に帰れるように頑張りたい」と言葉に力を込めた。
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東京Vの背番号10を脱ぎ、新天地・名古屋で背番号22に袖を通した。一日でも早く名古屋のエースストライカーとなるべく、今度は自らのゴールで結果を残していくだけだ。
(取材・文 西元舞、撮影 縄手猟)