「僕らは仲良しでやっているわけじゃない」
23日に行われた天皇杯決勝後には、優勝の喜びを最小限に留めて、すぐさま今節に向けた気持ちをつくり始めていた背番号11。並々ならぬ想いで臨んだ一戦だったからこそ、自身が奪った同点弾に気持ちを爆発させた。
後半55分、右コーナーキックの流れから得点が生まれた。一度は相手DFに弾かれたボールを神戸DF酒井高徳(ごうとく)が再び高く上げると、それを大迫が頭でDF広瀬陸斗に落とした。
広瀬のシュートは相手GKに防がれたが、柏DFによる必死のクリアボールは再び同選手の足に跳ね返りながら武藤のもとへと転がった。
「オフサイドだ」と背番号11は思ったが、ボールにすぐさま反応し、絶妙な位置にトラップした。ストライカーは倒れながら左足でシュートを放ち、ゴール右側のネットを揺らした。
「最近、慌てて外してしまうことや、ゴールキーパーに止められてしまう場面が多かったので、とにかく冷静にワンタッチ目を置けたことが大きいです。最初はダイレクトでいこうと思っていましたけど、あまりに急なボールで体勢も悪かったので、トラップで(得点が)決まったと思います」
一度はオフサイドの判定を受けたが、VARでゴールが認められ、神戸が土壇場でスコアを振り出しに戻した。
喜びのあまり思わずユニフォームを脱いだ武藤は、そのままゴール裏へ一直線。サポーターに向かって歓喜の雄叫びを上げた。
難敵・柏に苦戦を強いられたが、最後まで諦めなかった神戸イレブン。同点後は勝ち越し弾を奪いにいったが、試合はそのまま1-1で終了した。
昨季のJリーグチャンピオンは連覇に向けて最低限の結果をつかみ取った。
武藤は「きょうの勝点1が自力で優勝を決められる形に持ち込んだ。この(勝点)1の大きさは計り知れないものですし、なかったと思うとゾッとする」と安堵(あんど)しながらも、すぐさま「僕らは勝点1で納得していません。うれしくは思いますけど、何度も言うように甘さが出ている」とかぶとの緒を締めた。
今季はここまでリーグ戦36試合出場12得点7アシストを記録している背番号11は、天皇杯決勝では神戸FW宮代大聖の決勝点を演出するなど、チームの窮地(きゅうち)を救ってきた。日本代表や欧州の舞台で数々の修羅場を経験した32歳は、最終節を前に再び高い基準をチームに課す。
「僕らは仲良しでやっているわけじゃない。チャンピオンになることはそれだけ難しいこと。厳しい言い方になるかもしれませんが、戦えない選手は置いていく気持ち。僕ら自身が戦う姿を見せないといけない」
武藤によれば、試合後の雰囲気は決して良くなかったようだ。それでもチームの大黒柱は、ここで問題をあやふやにせず、選手間で対話を重ねる必要性を説いた。
「僕も個々で話さないといけない選手がいる。ここであやふやにしてしまったら、成長にもつながらない。僕自身も反省して、つぎに最高のコンディションで迎えられるように1週間トレーニングをしていきたいです」
勝点69の神戸は最終節J1湘南ベルマーレ戦(8日、兵庫・ノエビアスタジアム神戸)に勝てば、自力でリーグ2連覇を決める。
「勝てば優勝。ワクワクしています」と奮い立つ武藤。全員で掴み取った勝点1を2連覇につなげる。
(取材・文 浅野凜太郎)