――1966年に無料でユニフォームを提供したことについて。

ヘレネ:正確に言うと、UMBROではなくハロルド・ハンフリーズの子どもが世界中を飛び回り、W杯参加国のサッカー協会に直接働きかけ、試合で着用することを条件にユニフォーム一式をプレゼントしたのです。

それまでは、チームがUMBROのようなブランドから買い取るのが通例でしたが、それを根本から変えたのです。現代でいう、スポンサーに近い関係の始まりですね。今日では、我々ブランドが大金を払ってチームにユニフォームを着てもらうようになりました。

――シェア争いが熾烈なフットウェアにおける新しいイノベージョンや新作モデルの展開について。

コリン:私たちは常に革新を起こすように意識していますし、素材の観点からどのようなことが実現可能かを理解することも重要です。開発の出発点はいつも、アスリートと共にあります。

つまり、彼らが何を求めているか、ということからアイデアを膨らませ、それは試合内容の変化にあわせて変わっていきます。年々、試合はよりスピーディーな展開を見せ、プレーヤー自身の能力値も高くなっていますからね。

だからこそ、我々の仕事はプレーヤーが何を求めているかをきちんと理解して、彼らが100%の力を発揮できるようなものを必ず作り出す。科学的観点から見たり、生物力学を理解したり、もしくはファブリックと素材の観点から専門家と組んだり、あらゆる手段を使ってプレーヤーにパフォーマンスで必要なものを必ず提供することが、UMBROの使命なのです。

――コラボレーションの歴史と、それによる変化について。

ヘレネ:コラボレーションとは、単にファッションデザイナーとのプロジェクトを指すだけでなく、異なる分野で活躍し、プロダクトに専門的な知識を授けてくれるスペシャリストと行うことも意味するのですが、UMBROが初に行ったコラボは1950年代になります。それは、“Choice of Champion”と名付けられたマンチェスター・ユナイテッドの監督マット・バスビーとのトレーニングコレクションです。他にも、元イングランド代表の監督アルフ・ラムゼイ(※4)とも一緒に仕事をしました。

ですので、2002年にポール・スミスと組む以前よりコラボ自体は行っていましたが(※5)、ウェアよりもフットウェアが主流だったので、“ファッションブランドとのコラボに力を入れた初のブランド”として知られているのです。UMBROとポール・スミスは、どちらもイングランドのブランドで、イングランドのチームとつながりがあるということで、自然な成り行きからコラボが決まりました。

(※4)1966年に開催されたW杯イングランド大会で、同国代表を初優勝に導いた監督。
(※5)UMBROが初めてコラボレーションしたファッションブランド。

――コラボの中でも、キム・ジョーンズやPALACEなど、英国同士の結び付きが多いことについて。

アンソニー:必ずしも意識していると言うわけではないですが、100周年に際して“イギリスらしさ”とは何かに注力してきました。コラボとは双方に有益があるものです。相手がUMBROに新たな価値観を与え、我々も同様に相手に新たな価値観を吹き込む。双方にメリットがなくてはいけません。

大抵の場合、ファッションブランドはUMBROが非常にオーセンティックで歴史ある存在であることに魅力を感じてくれますし、コラボすることで彼らのデザインへの信頼度が増すでしょう。そして、我々自身もファッションデザイナーと協業することで、普段とは違う客層にリーチできます。

現在では、主にスポーツ好きに届いていますが、コラボが可能性を切り開き、いつもとは違う顧客が商品やブランドを見てくれるのです。

――ファッションブランドとのコラボによって引き起こされる可能性があるブランディングのブレについて。

アンソニー:最初に、コラボ先のブランドのことを評価し、彼らがなぜUMBROとコラボしたいのか、そして我々もなぜ彼らとコラボしたいのか、きちんと理解するようにしています。

先ほどお伝えしたように、コラボは双方にメリットがなくてはなりません。ファッション系や他の分野など関係なく、UMBROのスポーツにおけるオーセンティックさを必要とせず、単純に利益を求めているような相手からの提案は断ってきました。UMBROに何か新しい価値観が生まれないコラボであれば、はっきりノーと伝えます。

ヘレネ:アンソニーが言ったように、コラボしようとしている相手との相性の良し悪しを、初期段階から評価することが大事です。あと、現在は必ずしもファッションブランドとコラボしているわけではなく、例えばPALACEなどのコラボ相手をファッションブランドとは思っていません。

彼らは本質的にはスケートブランドで、ストリートウェアブランドですから大きな違いです。ストリートウェアは今はファッショナブルですが、数年後にはどうなっているかわからないですし、そうなった場合、テクノロジー主体のコラボに軸を据えるかもしれません。

しかし、今現在でいえば、ストリートウェアやスケートに根付いたブランドとコラボする傾向にあります。シンプルに、Z世代に響きますからね。

コリン:他のクリエイティブな人たちや異業種の人たちと一緒に仕事をするのは、より広い知見を得ることができる素晴らしいことです。コラボは視野を広げてくれますし、プロダクトの創作過程において、他者の視点を取り入れながら、従来とは違った側面にも重点が置かれるようになります。

私たちにとって、スタート地点はいつも消費者を理解したり、トレンド予測やそれに近い情報を見ることから始まります。デザイナーの観点から話すと、コラボ相手には何年もファッション業界で働いている人もいて、豊富な知識や製造工程を提案してくれるので、学ぶことがたくさんありますね。

――昨今のヴィンテージユニフォームのトレンドに関して。

コリン:UMBROのようなブランドにとっては、非常に良い流れです。UMBROは、これまでイングランド国内の多くのクラブをスポンサードしてきたので、フットボールにまつわる歴史と遺産、膨大なアーカイブが強みですからね。

いちフットボール好きとしても、かつてのトレンドや当時を象徴するアイテムを、日常的に見られることはとてもありがたいです。そういったアイテムと共に自分が成長してきたわけですし、ブランドとしても我々の財産(過去のアイテム)が今も価値があるのは誇りに思います。

トレンドというのは常に移り変わるものなので、次が来る前に今の波に乗り、好機を生かすべきです。同時に、スポーツの試合に熱中する1人の人間として、あと数年間は見届けたいと思っています。

ヘレネ:ただ、UMBROの良いところは、トレンドに大きく左右されないことです。トレンドは循環するもので、自分がこの業界にいる間、さまざまなトレンドが来ては去り、また来てはメインストリームに組み込まれていく様子を見てきました。その中でUMBROは、100年という背景があるので、いくらでも過去を掘ることができるのが強みですね。