渡邉監督は2020年10月に刊行された著書『ポジショナルフットボール実践論 すべては「相手を困らせる立ち位置」を取ることから始まる』(カンゼン)の中で、<3-4-2-1>(※著書では[3-4-3]と表記)の1トップ・2シャドーに対する効果的な動きの落とし込みに関して、「(前略)最初からこうした明確なセオリーを選手に提示できたわけではありませんでした。本当に一緒に作り上げていく感覚でした。《レーン》については、特に石原(※直樹)と小林慶行コーチが何度も話をしてくれました」(p.39)と当時の小林コーチの働きぶりに触れている。

同書では、渡邉監督のサッカー哲学が随所にうかがえるのだが、とりわけ「一番大事なポジション」(p.107)と形容するボランチ論は示唆に富む。

「(前略)理想を言えば攻撃のとき、あるいは守備に切り替わったときも含めて、ボランチは1人でやってもらいたい、いや、1人でやれると考えています。その1人の立ち位置で、相手FWをどれだけ困らせることができるか。その1人の立ち位置で、相手のボランチをどれくらい食いつかせることができるか。(中略)ともすれば1人で5人を困らせるとか、そういったことができるようになると周りの味方にものすごく多くの時間とスペースが与えられるわけです」(p.107)

そう、この理論とリンクするのが、今シーズンの千葉である。

守備時は<4-2-3-1>、攻撃時は田口泰士をアンカーに移す<4-3-3>という可変システムで戦い、ワンボランチの田口を崩しのキーマンとする形は、「(前略)ピッチ上の居場所がそうだからというのもありますが、やはりボランチは『心臓』なのです」(p.108)と語る渡邉監督の哲学と見事に重なっているのだ。

小林監督は、かつて仕えた渡邉監督の理論をベースとしながらも、攻撃において様々な形を取り入れている。ワンタッチないしツータッチで複数人が連動するリズミカルなパスワークで前進するほか、田口やセンターバックからのロングフィード(特に佐々木翔悟が秀逸)で一気に相手DFラインの裏を突くパターンもある。

こうした「前への意識」を強く持つと同時に、田口を軸としたセットプレー、田中和樹のロングスローといった“飛び道具”も有効活用して、相手に的を絞らせない攻撃を仕掛けていくのだ。多様な崩しがハマった結果、終盤戦の追い上げを実現できたと言えよう。

守備では<4-2-3-1>(※実際は1トップとトップ下が横に並ぶ<4-4-2>)へシフトし、前線からのアグレッシブなプレスを基本的な約束としつつ、戦況に応じて守備ブロックの位置を調節する。

フィールドプレーヤー10人でピッチを均等にカバーできる<4-4-2>は、守備においてもっともバランスが良く、計算が立つ布陣。アンカー脇のスペースを攻略されやすい<4-3-3>の構造的弱点を、<4-4-2>へシフトすることでカバーしている。