今季の伊賀FCくノ一は「Vフォーメーションの復刻」が面白い!

「縦へのスピード」「前からボールを奪いに行く守備」「攻守共に相手陣内でプレーする」は、今季の伊賀のサッカーを語る上でコンセプトとなる言葉だ。

そのサッカーは、「攻撃的か?守備的か?」を問われたら、「攻撃的」。ただ、そこにボールの有無は関係がない。「オフェンシブ」ではなく、「アグレッシブ」なサッカーと表現できる。

そして、そのコンセプトに合わせて、昨季は右サイドバックだったDF宮迫たまみがセンターバックに再コンバート。対人守備の能力が高い宮迫のCB起用は、カウンターを食らうと数的同数や数的不利となることも多くなる現在のスタイルに置いて大きな“保険”ともなっている。

また、現在の伊賀のサッカーで肝となっているのは、<4-3-3>あるいは、<4-1-4-1>の2列目中央となるインサイドMF2人の動きだ。

一般的にインサイドMFというポジションにはゲームメイクやゴールに絡むアシスト能力、そして時にはアンカー1枚のシステム的構造上、ボランチ的なバランス感覚や守備力を要求されるポジションである。

しかし、このポジションのことを大嶽監督も実際にその役割を担っている杉田も、「シャドー」と表現している。

そして実際に杉田と共に、この「シャドー」を担うMF森は、この日も1人で5本のシュートを放ち、ここまで9節を消化したなでしこリーグ2部全体の「シュート本数」のトップとなる27本を記録している。そして、杉田もリーグ4位の19本のシュートを放っている。

実際に大嶽監督はこのシャドーの選手に「相手ボランチの背後や脇にポジションをとるように」という指示を出している。

そして、パスは足下ではなくスペースに出すことを徹底し、両ウイングの選手も含めた4選手が1トップのFW小川の背後にできるスペースでボールを受けられるように攻撃を構築している。

また、左SBに本職はアタッカーの作間琴莉を起用しているように、「このチームのサイドバックは、中盤の選手です。サイドバックが中盤で数的有利を作るんです」とも話す大嶽監督の言葉を組み合わせていくと、下記のような<2-3-5>のような布陣となり、感慨深いサッカーの歴史を想起した。

実はサッカーというスポーツができた19世紀中頃から約60年間は、世界中のどこのチームであろうと、全てのチームが<2-3-5>のフォーメーションで戦っていたのだ。「V」の字型に並ぶ布陣であるため、所謂、『Vフォーメーション』と呼ばれていたものである。

ただ、大嶽監督や伊賀の選手達は、このサッカーの歴史が詰まった“遺跡”を掘り起こそうとしているわけではない。

おそらく、「他のチームがやらない特別なことをしようとしていたら、偶然にも似ていた」ということだろう。それだけ緻密に計算されている先人の知恵は偉大である。

そんなサッカーの歴史に乗っ取った進化過程を見せている、今季の伊賀フットボールくノ一のサッカーもやはり、特別である!是非一度、ご覧あれ!

【次回予告】伊賀FCくノ一主将MF杉田亜未選手のインタビュー

そして、この試合の直後、今回のコラムでも取り上げた今季の伊賀FCくノ一の肝となるポジション“シャドー”を担うMF杉田亜未選手にお話しを伺ってきました。

日本代表経験があり、今後も代表入りが期待されるチームの主将に、今年のチームや自身の新たなポジションのことなどを伺いました。お楽しみに!!

筆者名:新垣 博之

創設当初からのJリーグファンで女子サッカーやJFLを取材するフットボールライター。宇佐美貴史やエジル、杉田亜未など絶滅危惧種となったファンタジスタを愛する。趣味の音楽は演奏も好きだが、CD500枚ほど所持するコレクターでもある。

Twitter: @hirobrownmiki

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