「相性抜群」に潜んでいた「もう一つの巡り」

最初にネタばらしをすると、過去に6大会が行われていた「戌年のW杯」で優勝したのはたった2か国しかありません。2014年を含めた「午年」が7大会で5か国優勝したのと比べると、集中度が非常に高いのです。

そしてその一方がアズーリ、イタリア代表でした。

<表1> 過去の「戌年」W杯でのイタリアの成績

過去6大会で優勝3回、準優勝2回。「ムッソリーニの大会」とも呼ばれた1934年の自国開催を含め、今までの戌年の大会では必ず決勝まで進み、他国を圧倒していました。その意味でも今回の欧州予選プレーオフ敗退は衝撃でした。

ただ「干支」の本来の意味は「十干十二支」、つまり木火土金水の五行思想に基づく十干と動物になぞらえた十二支の組み合わせです。これだと60年で一周ですが……その1958年、イタリアは北アイルランドに敗れて本大会出場を逃しました。大会自体に不参加だった1930年の第1回ウルグアイ大会を除くと、「アズーリのいないW杯」は2回とも戊戌(つちのえいぬ)の年になりました。

実はその前、1898年はイタリアサッカー連盟が結成され、第1回のイタリア選手権(今のコパ・イタリア)が開催された年(4チーム参加でジェノアが優勝)。カトリックの総本山の国に言うのも変ですが、今年はまさに「危機と創造」にふさわしい巡り合わせのようです。 

そしてカナリアの一人旅は……?

過去6回の戌年W杯、イタリアと同じく優勝3回でタイトルを二分していたもう一方は、やっぱり強いブラジルでした。ただ、イタリアほどの安定感が無いのです。

<表2> 過去の「戌年」W杯でのブラジルの成績

今回も危なげなく南米予選を首位通過して21回連続の本大会進出を決め、世界唯一のフル参加を継続しているカナリア軍団。優勝5回のうち3回をこの戌年で経験している相性の良さは折り紙付きです。ライバルのアズーリがいないこのロシア大会では「唯一の戌年W杯優勝国」として絶対的な優位に立ちました。

なお、ブラジル自身にとっても初優勝だった1958年は17歳のペレが世界デビューした大会で、『Qoly』でも取り上げた映画「ペレ 伝説の誕生」でも紹介されました。1970年の優勝は29歳のペレが円熟期を迎え、当時のジュール・リメ杯を獲得して「サッカーの王様」の名を世界にとどろかせた大会です。

ところが、出ればファイナリスト確定だったイタリアと違い、ブラジルはその前に足下をすくわれる場合があります。1982年は準決勝進出目前でそのイタリアに逆転負け、2006年は現役最後の大会で奇跡の復活を見せたジネディーヌ・ジダンのいたフランスに準々決勝で敗退(ゴールはティエリ・アンリ)。ですので、決勝トーナメントの早いラウンドで消える危険性も消せないですね。ジーコやトニーニョ・セレーゾなどの「黄金のカルテット」がパオロ・ロッシにハットトリックを許して優勝を逃したような事態が再現される危険性も感じます。 

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