2.キックフェイント

続いてのポイントですが、それは「シュートを打つ前にいれたキックフェイント」にあります。

このワンモーションにより、サンフレッチェ広島の守備陣に対して二つの影響を与えました。

一つ目は「シュートブロックに動いていたDFの水本選手の歩幅を狂わせた」こと。

そして、二つ目は「GKの林選手にいつシュートを打つかを迷わせた」ことです。

これは最後のポイントにも繋がるので、その説明は後述します。

3.股抜きシュート

ゴールの決め手となった最後のポイントですが、それは杉本選手が試みた「股抜きシュート」でした。

ここで改めて、ゴールに至るまでのプロセスを振り返りましょう。

まず、杉本選手は、前述のキックフェイントで、水本選手の歩幅をずらすことに成功しました。

これにより、水本選手はシュートブロックを試みようとスライディングを行ったものの、その対応に"遅れ”が発生します。

そして、その“遅れ”を活かす形で杉本選手は「股抜きシュート」を狙い、ボールは水本選手の股を抜けて…というのがゴールまでの過程でした。

ですが、このゴールシーンを見た時、このように感じた人がいたのではないでしょうか。

「なぜ、GKの林選手はシュートを防げなかったのか」と。

この問いに対しては、林選手が受けた影響を個別に振り返ってみるとその答えが見えてきます。

①(杉本選手が)キックフェイントが行ったこと

②(杉本選手が)キーパーを見ずにシュートを打ったこと

林選手は、これら①と②の効果で「シュートタイミングが掴めない」という影響を受けました。

これはいかなるゴールキーパーでも大きなダメージとなるため、林選手レベルであっても、その影響度はかなり高かったと考えられます。

そして、追い討ちとなったのが以下。

③(杉本選手)が股抜きシュートを狙ったこと

です。

この③で、一瞬「ブラインド状態」に陥ることなり、ステップの“遅れ”が発生。これで止めを刺された林選手は、最終的に失点を許してしまったというわけです。

通常、あの距離からシュートを打ったところで、なかなかゴールは生まれません。

仮に練習時にフリーの状態であっても、日本代表経験のあるようなゴールキーパーが相手となれば、その難易度は極めて高いでしょう。

ですが、今回はそれでもゴールが生まれました。

それは、杉本選手が「股抜きシュート」(言い換えるならば、あえてディフェンスが前にいる状態でのシュート)を最後に決断したからです。

ディフェンスがいる状態でシュート打つことは――そのディフェンスを利用して――ゴールキーパーのタイミングをずらしたり、またはブラインドを生み出したりすることがあり、結果的にゴールに結びつくものですが、その感覚はFWであれば特に持っているものだと思います。

つまり、今回の決断とゴールは、FWならではの考えによって生まれたものとも言えるかもしれません。