理想と現実の狭間で揺れながら

13節を終了し、失点数は14。今季も堅守は看板通りの強固さを誇る。その一方で、得点数は10。やはり攻撃が課題である。

カウンター一辺倒の攻撃では、なかなか得点チャンスを生み出すのは難しい。堅守はそのままに、ポゼッションで相手を崩すことができれば鬼に金棒だが、そうは上手く行かない。例えば7節のアルビレックス新潟戦。あえてボールを“持たされた”ことにより、リズムを崩して敗北を喫したのだった。

とはいえ、元来ポゼッションを哲学とする吉田監督の下、昨季よりはボールを握れるようになってきている。だが、指揮官は過去の反省も踏まえ、急激な改革を起こそうとはしていない。あくまでも堅守をベースとし、徐々に攻撃のバリエーションを増やしていく構えだ。

今季が始まる前、甲府が吉田監督を招聘したというニュースを耳にした筆者は、スタイル転換を予想した。従来の堅守速攻ではなく、ポゼッションを軸とした能動的なフットボールへの転換である。しかし蓋を開けてみれば、堅守速攻をベースにしつつ、システム変更によって独自色を打ち出した。残留を第一に考えるのであれば、極めて賢明な判断だと思う。

どのチームにも言えることだが、チームの色を180度変えるということは容易ではない。仮に今季の甲府がポゼッションを前面に押し出していれば、今頃最下位に沈んでいた可能性は高い。中途半端なパス回しからカウンターを食らう画が容易に想像できる。

カウンターを武器にするチームは、カウンターの恐怖が痛いほど分かる。だからこそ、急激なスタイルの転換を避けたに違いない。思えば、ディエゴ・シメオネが率いるアトレティコ・マドリーも徐々にスタイルを変えようと試みている。彼らの場合、コケをボランチで起用するというマイナーチェンジである。

“ボールを握れるようになりたい”という理想と“J1に残留するには堅守を最優先する”という現実。理想と現実の狭間で揺れながらも、徐々にその差を埋めつつある。13節のFC東京戦では、ボールを握って押し込む時間帯が見られた。

地方都市の宿命とも言える限られた予算の中、百戦錬磨のベテランや良質な外国人を補強し、変化を加えながら着実に勝ち点を積み上げていく。地に足のついた“プロヴィンチアの雄”から学ぶ点は多いはずだ。

2017/05/28 written by ロッシ


筆者名:ロッシ

プロフィール: 1992年生まれ。1998年フランスW杯がきっかけでサッカーの虜となる。筆者の性格は堅実で真面目なため、ハビエル・サネッティ、長谷部誠、ダニエレ・ボネーラ、アルバロ・アルベロア、マッティア・カッサーニにシンパシーを感じている。ご意見・ご感想などありましたら、ツイッターアカウントまでお寄せください。

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