現実と物語の夢の交差

史実のペレは、実は少し違います。ヒーローの活躍を誇張して描く多くの創作とは逆に、スウェーデンW杯での彼はこの映画よりも鮮烈でした。このフランス戦の前からフットボールの世界はニュースターを知っていたのです。この映画は、その辺も少し演出しています。

しかし、そんな細かい知識をねじ伏せる技を、スクリーンの中の選手たちは見せてくれます。ジジにガリンシャなど、セレソンの歴史を作ったクラッキがとても映画とは思えないほどのプレーを披露し、その熱気とともに観客を包みます。そして最後にペレが「伝説」を……。


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この映画は『スラムドッグ$ミリオネア』で作曲賞と歌曲賞をダブル受賞、『ブラック・スワン』で撮影賞にノミネートという、アカデミー賞クラスのスタッフが手がけました。その手腕は、エジソン少年がストリートサッカーを楽しむ場面でインパクトを与え、クライマックスのW杯の試合で一気に炸裂します。それは「非現実的な現実」の力を借りながら「夢のような物語」を私たちに見せてくれます。

ペレを見る、ペレを知る

そんなわけで、迫力満点の時間を過ごせた試写会でした。

ただし、無粋な視点に立つと、気になる部分が少しだけ。それは1950年代という、今とは違う時代のせいでもありますが、そんな雑音を全部吹っ飛ばす超絶テクニックが、軽快かつ圧倒的なリズムとともにあふれ出てきます。そして、ああやっぱりペレって、ブラジルってこんなにすごいんだ……という感想を、スウェーデン国王もいた58年前の5万人の観客と共有するでしょう。

日本でW杯が生中継されたのは1974年の西ドイツ大会からでした。当時のサッカーファンは、ペレの活躍をほとんど文字で知っていたはずです。そんなオールドファンはあの時の真実を目に焼き付けながら、「名前は知っているけどどんなにすごいの?」というお孫さんも一緒に連れて行くと、家族みんなでとても楽しめるのではないでしょうか。あとは、ドゥンガ以外のブラジル人の皆さんにも(笑)。

映画『ペレ-伝説の誕生』は、8日から全国のTOHOシネマズ系で公開です。ぜひ映画館で楽しんでほしい作品です。どうか皆さんでご覧ください。

【外部リンク】『ペレ-伝説の誕生』公式サイト

筆者名:駒場野/中西正紀

サッカーデータベースサイト「RSSSF」の日本人メンバー。Jリーグ発足時・パソコン通信時代からのサッカーファン。FIFA.comでは日本国内開催のW杯予選で試合速報を担当中。他に歴史・鉄道・政治などで執筆を続け、「ピッチの外側」にも視野を広げる。思う事は「資料室でもサッカーは楽しめる」。

サイト: http://www.rsssf.com/
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