図と写真の両方を使って、説明しよう。

ブレンダン・ロジャースは前線と中盤に対して、守備における適切な指示を出し切れていなかった。だからこそ、図の水色のゾーンで2対1が作られてしまうシーンが散見されたのだ。

両ボランチは相手のボランチに対応する余裕はなく、前線は自由にボールを追い回すだけ。ということで、「ウイングがCBに詰めていけばDHがフリー」、「ウイングがDHに詰めていけばCBがフリー」という風に、徹底的に相手に自由を与えてしまった。下の2枚の写真を見ても解るように、ボランチは全くプレッシャーを受けていない状態でボールを受けている。ボランチに入った後にウイングがカバーにいく訳でもなく、相手に自由を与えてしまっているのだ。

自発的にララーナが左センターハーフのような位置に入り、ボランチをズラすことで守備時に数的同数を保とうとする場面もあったが、それはあくまで選手の工夫によるもの。チームとして継続することが出来ない、選手任せの守備は驚くほどに脆い。3失点は、残念ながら「必然」のものだった。機動力のあるコウチーニョ、スターリング、ララーナという3人で仕掛ける前からのプレスも、ボールを取るところが決まっていないせいで空回りしてしまった。

ブレンダン・ロジャースが抱える「問題の本質」

簡単に言えば、ブレンダン・ロジャースは選手達の個性を完全に理解しきれていない。というより、選手の能力を過大に見積もり過ぎる節がある。それこそが、筆者が考える「本質的な問題」だ。だからこそ、ジョー・アレンを3バックの前に置く「ダブルボランチの1角」として起用したのだ。

試合後にブレンダン・ロジャースは「中盤に存在感を加えたいと感じ、彼を起用した」とコメントしているが、ジョー・アレンは明らかに3センター向けの選手である。機動力はあるものの、サイドに出ていきたがる習性は、中盤の守備において大きな弱点になりかねない。そんなジョー・アレンを使うのであれば、「中盤に生まれる可能性が高いスペースのカバー」や、「本人への細かな守備位置の指示」が不可欠だったはずだ。

スティーブン・ジェラードを中盤の底で使いたがっていることにも共通するが、ブレンダン・ロジャースは、自分のチームの選手を客観的に見ることが出来ていない。ヘンダーソンの右ウイングバック起用や、グレン・ジョンソンのCB起用もそうだが、選手のポテンシャルを高く見積もり過ぎるが故の無理のある配置転換も少なくない。

ルイス・スアレスが牽引する攻撃陣が好調だった昨シーズンは、こういったコンバートのマイナス面が露呈することも少なかった。むしろ配置転換によってアタッカーは輝きを放ち、リバプールの躍進を支えていたと言えるだろう。

しかし、こうした傾向は、今季は守備の不安、新戦力の不調という要素に直接的にリンクしている。全員が昨シーズンのラヒーム・スターリングのように柔軟に配置転換に順応出来る訳ではないのである。

また、ファン・ハールの様な「相手をどのように嫌がらせるか」、という視点も欠けているのだろう。

脆弱な3バックを狙い打つのであれば、もう少し前線に人数をかける、長身FWを起用してキャリックのところから崩すという手もあっただろうし、中盤にパサーを置けていない状況を考慮するのであれば、ボランチの位置にプレッシャーをかけていくことも出来た筈だ。フェライニ、ルーニーの2人であれば、リバプールがプレッシングによってミスを誘発し、ショートカウンターを狙うことも可能だったはずである。相手のことにまで考えを巡らす余裕がないのかもしれないが、正攻法で当たるだけが戦いではない。

ブレンダン・ロジャースは恐らく人の良い指揮官だ。若い選手たちを信頼し、チャンスを与える姿勢こそが、昨シーズンの躍進を支えていたのも事実だ。しかし、その人の良さこそが選手の能力に関する客観的な選択を妨げ、結果的に選手達の自由を優先するフットボールに傾倒してしまっている。特に守備面で、その「自由」や「過大評価」はチームの機能性を蝕む。「どのように理想と現実の折り合いをつけるか」という問いは、指揮官が頻繁に遭遇するものではあるが、今のブレンダン・ロジャースにとっては致命的なものだろう。

好調時の絵を忘れ、地道に現状を分析すること。確実で地道な一歩だけが、彼を危機から救うはずだ。


筆者名:結城 康平

プロフィール:「フットボールの試合を色んな角度から切り取って、様々な形にして組み合わせながら1つの作品にしていくことを目指す。形にこだわらず、わかりやすく、最後まで読んでもらえるような、見てない試合を是非再放送で見たいって思っていただけるような文章が書けるように日々研鑽中」
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