リバプール対チェルシー。昨シーズンは、リバプールにとって「優勝を狙う上での天王山」として扱われた因縁の闘いだ。前回の対戦では、名将ジョゼ・モウリーニョの前で空回りさせられるように封じ込められた圧倒的破壊力を誇る攻撃ユニットと、本来はミスの少ないプレイヤーであるジェラードの意外過ぎるミスが試合を忘れられないものにした。そんな因縁の試合において、またもジョゼ・モウリーニョ率いるチェルシーはブレンダン・ロジャース自慢の攻撃陣を封じ込め、敵地で2-1の逆転勝利を手にした。

本コラムでは、前半は攻撃的に上手く振る舞っていたリバプールを、ジョゼ・モウリーニョがどのように解析し、対応させることによって勝利を手繰り寄せたのかを時系列に沿って分析していきたい。また、リバプールのロングボール使用における問題についても言及していくこととしよう。

これは、エムレ・チャンが前半開始早々に、良い位置でボールを持った場面だ。ここでは、セカンドボールを拾いながら高い位置に出ようとしたヘンダーソン(赤14番)にマティッチ(青21番)が引き付けられている。更に中央のセスクがエムレ・チャンの位置にプレッシャーに行くものの、この後アッサリと振り切られ、最初のシュートを許してしまうのである。

こういった部分が「セスクをボランチに使うリスク」として様々な試合で露呈している問題だ。この2週間前にチェルシーと対戦したマンチェスター・ユナイテッドも、「守備時にマティッチが中盤で1人になり易い点」を狙ってチャンスを作り出そうとしていた。

とはいえ、ジョゼ・モウリーニョも大きな穴を開け放しにするほど無謀な指揮官ではない。セスクの「攻撃的な仕事」の穴埋めを守備面で任せられた運動量自慢のラミレス(7番)は、組み立てでも柔軟にポジションを取る。この場面では、右サイドバックのような位置でボールを待っている。右サイドハーフ起用だったが、彼は守備において左サイドや中央に現れる場面もあった。

ラミレスの存在によって守備が補填されることで、セスクは自由に動き回る。右サイドの低い位置に入った上の画像のように(手前の4番)サイドに動きながら受けるようなプレーは、実際奪われた時のリスクを考えると2センターでは選びづらい。ラミレスが中央のカバーをこなしてくれるからこそ、こういったポジション取りが可能になる訳だ。

しかし、「柔軟な動き」と「システマチックな動き」は簡単には両立しない。ここでは、セスクとラミレスのポジション分担が狂っている。先ほども見たように、ラミレスで中央をカバーさせ、攻撃においてセスクとマティッチに柔軟な動きをさせるという狙いがモウリーニョにはあったのだが、守備の局面でラミレスが「セスクが戻ってきたときのポジションをどのように取るべきか」が解らず、混乱しているのだ。

攻撃での柔軟性を保とうとしたせいで、システマチックな守備における混乱が起こる。

一方でリバプールは、前からのプレスに対して「3センター全員が組み立てに参加する」という手で見事に適応。特にヘンダーソンが落ちてくる形は、上手く相手のプレッシングをいなす上で機能していた。

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