昨シーズン、攻撃的で魅力的なフットボールを披露し、プレミアリーグの主役となったリバプールが、今季は慢性的な風邪のような不調に喘いでいる。

久しぶりの挑戦となったCLではグループリーグでの敗退となり、CLでメンバーを落としてまで力を入れているはずのプレミアリーグでも11位(12月16日現在)。プレミアリーグ全体のレベルが上がっているとはいえ、前半戦での結果はリバプールファンとしては受け入れがたいものだろう。

実際、英国紙もリバプールが新指揮官を探している、といった内容の報道を開始している。勿論、リバプールが結果を出せていない原因は1つではない。考えられるだけでも怪我人の続出、新戦力の不調、ルイス・スアレスの放出に伴う攻撃力の低下、組織として組み上げきれていない守備の問題など、様々なファクターが複合的にチーム全体の不調に繋がっているはずだ。

しかし、全ての問題が包括的にカバー出来る訳ではないものの、こういった問題は1つの本質的な問題と相互に関わり合っている。

今回は、シーズンで最も重要な試合の1つとして捉えられる歴史的な宿敵、マンチェスター・ユナイテッドとの試合を分析していくことを通して、指揮官ブレンダン・ロジャースの戦術における本質的な問題を考察していきたい。

また、マンチェスター・ユナイテッドの指揮官である智将ファン・ハールとの比較も、1つの新たな目線を提供してくれるはずだ。

ファン・ハールの狙い。機動力重視の選手選考。

まずは、「ファン・ハールが行った工夫」について考えていこう。

この試合では、FWの1人として19歳のジェームズ・ウィルソンを起用。また、フアン・マタをトップ下、本来は前線でプレーするウェイン・ルーニーを一列下となる守備MFのポジションに置いた。これは、一見すれば非常に危険なスタイルである。攻撃的な面子を中心にチームを組むことにより、ただでさえ怪我人が続出しており、復帰して間もないフィル・ジョーンズと本職ではないマイケル・キャリック、3バックを苦手としているジョニー・エヴァンスによって構成される3バックが危険に晒される回数が増えることにもなりかねない。

しかし、指揮官ファン・ハールには「守備面での」確固とした狙いがあった。

前半3分と、前半7分。まずは、この2つの場面を見ていただきたい。向かって右に攻めるマンチェスター・ユナイテッドが、ボランチに起用されたフェライニとルーニーが非常に高い位置を取ることで、リバプールの中盤に徹底して圧力をかけていることが解るだろう。

また、2枚目でウィルソンがボールにプレッシャーをかけていることからも解るように、機動力のあるフアン・マタとジェームズ・ウィルソンの組み合わせは、リバプールのDFラインに対しても積極的に仕掛け、ボールを持つことを妨害しようとしていた。これは、今シーズンを通してファン・ハールが志向してきた相手のボランチを取り囲むプレッシング(参考: ファン・ハールの仕込む「マジック・ダイヤモンド」とは。守備編)と比較しても、より積極的な戦術だ。

機動力を生かして、相手のDFラインを酸欠状態にしてしまうようなスタイルは、むしろメンバー的にリバプールが得意としていたような戦術であり、マンチェスター・ユナイテッドは相手のお株を奪うように慣れないリバプールの3バックを苦しめた。今季、「ジェラードを中盤の底に組み込むマイナーチェンジ」を行ったことで、昨シーズンの様にスムーズに組み立てが出来ていないリバプールの弱点を適切に狙い撃った形と言ってもいいだろう。実際、指揮官ファン・ハールは試合後に「敵に問題を引き起こすために、このメンバーを選択した」とコメントしている。

さらに、機動力のある選手を使うことにより、攻撃面でも何度となく裏のスペースを狙う形を見せた。2得点目のフアン・マタが飛び込んだ形は、厳密にはオフサイドを見逃して貰ったものだが、リバプールのDFが捕まえきれないスペースを機動力のある選手によって意図的に狙っている。フアン・マタの長距離を走った飛び出しは、今季はそこまで観られていなかったものだ。攻撃、守備の両面で相手に問題を引き起こすための奇策的な選手選考は、間違いなく奏功した。

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