W杯が終わり、元メキシコ代表指揮官ハビエル・アギーレが日本代表の指揮官に就任した。「運動量を重視し、速い展開のフットボールを好む指揮官」という、前任者ザッケローニと比べると自らの哲学を全面に押し出すタイプの指揮官だけに、ある意味で選手達との融和を図った末に失敗に終わったブラジルW杯の反省を生かそうとしているという面もあるのだろうか。何にしても、初戦でのメンバー選考、戦術には大きな注目が集まっていたことだろう。

勿論たった1試合、時間もない中で指揮官の全てを知ることは難しい。しかし一方で、「指揮官の根本的な戦術的志向」が見えるのもまた、チームが出来上がっていない状況での試合を観戦する面白さではある。そういった意味で、今回のコラムでは初戦となったウルグアイ戦のスタイルについて、ウルグアイ側の戦術にも言及しつつ考察していこう。

まず、タイトルに書いたようにアギーレJAPANの初戦での戦術はガス・ポジェが現在率いているイングランドの「サンダーランドFC」に似ているという印象を受けた。

より細かく言えば、今季第2節でマンチェスター・ユナイテッドに対して採用した戦術に近い。フォーメーション上では3センターの3トップになっているものの、守備時のシステムはシンプルな4-4ゾーンに近いというものだ。

サンダーランド式のメリットとデメリット。

この戦術のメリットを考えてみると、3トップを意識させて4-4ゾーンに移行させることによって2トップを前線に残してカウンターを狙えることが1つだろう。サンダーランドはコナー・ウィッカムとフレッチャーを前線に残し、日本は岡崎と皆川の2人を前線に残すことでカウンターを成立させようとした。逆にデメリットは右ウイングが「攻撃では右ウイング、守備では右サイドハーフ」として振る舞わざるを得ないことだ。体力的な負担は大きく、実際サンダーランドは今季獲得した献身的なウィル・バックリーを右ウイングに起用し、途中交代枠も彼に使った。実際ヒートマップなどをチェックしても、ウィル・バックリーは守備時には低い位置にまで戻っていたことがわかる。

Barclays Premier League Fixtures 2014/15: Football Match Dates
http://www.dailymail.co.uk/sport/football/premier-league/fixtures.html#s2014-m755320

また、この戦術の1つのメリットとしては、カウンターの際に左の位置に入ったセンターハーフを自然にカウンターに動員出来るということもある。今回でいえば元レイソル、現スポルティングの田中がそれだ。アタッカー起用が多い彼をセントラルで起用したのは、カウンターで一気に左サイドからの攻撃の狙いがあったと考えれば頷ける。実際これもガス・ポジェのサンダーランドに近い。3センターと見せかけて中央を守備的な2枚で封鎖、残った1枚は中央ではなくサイドから攻撃に参加する。とはいえ、実際のウルグアイ戦では田中、本田、岡崎といった選手は上手く連携しながらカウンター出来る場面は少なく、こういった狙いがあったと仮定しても具現化することは出来なかったのだが。もう1つのメリットは、相手のカウンター時は3センターで対応することが出来ることだ。右のアタッカーが戻れない際は中央を封鎖し、カウンターを塞ぐようなことも「熟練したチーム」であれば可能ということだ。

【次ページ】露呈した個々の戦術観の弱さ。