20日、ロシア3部リーグ(PFL)南地区の第3節で、SKChFセヴァストポリとTSKシンフェロポリによる「クリミアダービー」が開催された。
ご存知の通り、今年3月、ウクライナからの分離独立とロシア編入を問う住民投票の結果、ロシアへ編入されたクリミア自治共和国とセヴァストポリ特別市。これに対して国際社会は強い反発を表し、米欧がロシアへの追加制裁を実施。さらに、ウクライナ東部でもドネツクを中心に独立の機運が高まり、ウクライナ政府と親ロシア派の対立からマレーシア航空機墜落という悲劇が生まれるなど緊張は続いている。
そうした中、サッカーの観点から大きな注目を集めたのは、FCセヴァストポリ、タヴリヤ・シンフェロポリという2つのクリミアのクラブ。両者はともにウクライナ1部リーグに所属しており、特にタヴリヤはウクライナが独立した直後の1992年、最初に開催された1部リーグで優勝したクラブ。ディナモ・キエフとシャフタール・ドネツクの2強以外が国内リーグを制したのは、現在までのところこの一度だけである。
ただ、クリミア全体の意志としてロシアへの復帰は悲願であったため、両クラブを筆頭としたサッカークラブも当然のようにロシアへ“移籍”。クラブ自体も、タヴリヤ・シンフェロポリが「TSKシンフェロポリ」、セヴァストポリが「SKChFセヴァストポリ」として生まれ変わり、この日、ロシア3部にあたるPFLの南地区のリーグ戦で初めて対戦した。(クリミアからはもう一つ、ジェムチュジナ・ヤルタというクラブもこのリーグに参加している)
この歴史的なロシアでのクリミアダービーは、SKChFのYouTube公式チャンネルで生中継。現在も試合のフル動画が公開されている。
入場の際、選手たちと一緒に入ってきたマスコットキッズの手には、ロシアの国旗カラーを表す3色の風船。
スタンド中央の大きなバナーに加え、国歌斉唱の場面ではタオルマフラーを掲げるサポーターとともにロシア国旗を振るファンの姿も見える。
試合は両GKの好守もあって引きしまった展開となり、0-0で迎えた66分、右サイドからのクロスを中央で合わせ、アウェイのTSK(白)が先制。その4分後にも再び右サイドの崩しから見事な追加点を挙げ、3節ながらリーグ初戦となった両チームの対戦は、シンフェロポリをホームとするTSKに軍配が上がった。
ちなみに、実は一週間前の8月12日、ロシアカップの1回戦において両チームは公式戦で初対戦しており、このときは逆にSKChFがアウェイでTSKに2-0と勝利。こうした早い時期に2試合のダービーが組まれたのは、何らかの意図があると考えることもできるだろう。(下はカップ戦の方のハイライト)
ともにウクライナ時代と同じスタジアムを使用しているため、選手は無名のロシア人選手ばかりになったとはいえハード面は充実している。
「世界情勢」としてはまだまだ緊迫、というかまさに渦中の地域。ウクライナサッカー協会も彼らのロシア転籍を断固として認めていない。
しかし、そうした周囲の状況に左右されながらも、当たり前のように試合が行われ、全力のプレーに一喜一憂する人々。その“非日常的な日常性”がなんともサッカーらしいと言えるかもしれない。