【Qolyアンバサダーのコラムニスト、中坊コラムの中坊氏によるコラムをお届けします】

以前のコラム(※)において、現状でヨーロッパ所属日本人選手が200人を超えている件を取り上げた。トータルの多さについても驚きだが、毎年夏・冬合わせて30人近くが海外移籍している現状であり、

「いつからこんなに多くなったのか?」

「いつからJ2から直接海外移籍するようになったのか?」

「いつからJリーグを経由せず高校から直接ヨーロッパへ行くようになったのか?」

等々、ここまで海外移籍が多くなると混乱も大きいため、一度整理しておきたい。

(※)「海外組8人の時代から200人超えの時代へ」
https://qoly.jp/2024/07/06/bceafea3-807c95d7-1

海外移籍の様々なフェーズについて原点から時系列で振り返ることで、新たなサッカーファンにとっては過去の歴史を知る機会にしてもらい、既存のサッカーファンからすれば改めて時系列や転機を確認し、今後の日本サッカー界の行く末について推測する材料にしていただきたい。

なお、このコラム内での「海外移籍」は「ヨーロッパクラブへの移籍」を指す。アジアやオセアニアや南米は除いて説明する。

ラストの第3回となる今回は、以下の第九期から第十一期とまとめをお届けする。

第九期:Jリーグを経由せず高校・大学卒業直後に海外移籍

第十期:J2・J3からも海外移籍

第十一期:年齢問わず・主力でなくても海外移籍

まとめ:ふりかえりと今後の行く末

(前々回)日本人サッカー選手「ヨーロッパ・海外移籍」の軌跡 第1回:奥寺康彦から欧州で初の“共闘”まで
https://qoly.jp/2025/02/12/lxsdgc3y-704589f4-gib-1

(前回)日本人サッカー選手「ヨーロッパ・海外移籍」の軌跡 第2回:香川真司の大活躍から大卒選手の海外行きまで
https://qoly.jp/2025/02/13/qllbwh6j-704589f4-gib-1

第九期:Jリーグを経由せず高校・大学卒業後に海外移籍(2022−)

Jリーグ入団ではなく海外でプロとしてのキャリアを始めるパターンの実質第一号は平山相太だろう。

2005年、国見高校から筑波大学に進学したと思ったらオランダ・ヘラクレスに移籍し、プロとしてのキャリアが始まった。しかも31試合8得点と20歳で見事な活躍

今までの定石だった「国内Jリーグでキャリアスタート」が崩れた瞬間である。ただ、そうはいってもこの定石はまだまだ不動のものであり、平山以後も下記の事例はあったものの、毎年起こる事例ではなく、数年に一度の事例だった。

・2005年:平山相太(筑波大→オランダ・ヘラクレス)
・2007年:伊藤翔(中京大附属中京高→フランス・グルノーブル)
・2010年:宮市亮(中京大附属中京高→イングランド・アーセナル)
・2013年:長澤和輝(専修大→ドイツ・ケルン)
・2015年:渡邊凌磨(早稲田大→ドイツ・インゴルシュタット)
・2018年:小池裕太(流通経済大→ベルギー・シント=トロイデン)

しかし、尚志高校のチェイス・アンリがシュトゥットガルトへ入団した2022年を皮切りに、毎年2、3人が高卒・大卒即海外という進路を選択する流れとなった

福田師王、花城琳斗、佐藤恵允、宮原勇太、吉永夢希、木村晟明、小杉啓太、高岡伶颯、塩貝健人…等々。※1

この流れが良いか悪いかで言うと、過去の平山相太、伊藤翔、宮市亮の三例に限って言えば「どちらとも言えない」

つまり、海外で大成はせずJリーグに戻ってきて、Jリーグでそれなりに活躍をし、平山と宮市は日本代表のキャップも何試合か経験したためだ。

これが海外で大成功し続けた事例だったなら「良い流れ・成功例」だし、海外でもダメ、Jリーグでも全くダメで早期引退だったなら「悪い流れ・失敗例」となるが、結果的にはどちらでもない

おそらく、チェイス・アンリ以後の挑戦組についても同じ流れだと思う。海外でそれなりにキャリアは積むも、日本代表の主力には定着せず3〜10年後にはJリーグに復帰という予想がつく。

とはいえ、これだけの人数が挑戦しているため、中には前例を覆し、海外で大成功・日本代表の主力にも定着という選手が出てくる可能性は大いにありえる。行く末について数年、数十年かけて見守るしかない。

ただ、大成功例が出てきたとしても、Jリーグを経由せず即海外が王道になる世界は来ないと断言できる。Jリーグの場合、「サッカーに集中できる環境」が大きなメリットだからだ。

つまり、海外からプロキャリアをスタートさせると言語、食生活、治安等※2、サッカー以外の環境で神経をすり減らす部分も多く、ハングリー精神を育むと言うのは無理があり、こんな余計な雑音は無い方が良いしサッカーに集中できる環境の方が当然望ましい※3。

※1 福田師王(神村学園高→ボルシアMG)、花城琳斗(JFAアカデミー福島→シュトゥットガルト)、佐藤恵允(明治大→ブレーメン)、宮原勇太(興国高→グールニク・ザブジェ)、吉永夢希(神村学園高→ヘンク)、木村晟明(水戸ユース→NHKヴコヴァル)、小杉啓太(湘南U-18→ユールゴーデン)、高岡伶颯(日章学園高→サウサンプトン)

※2 浅野拓磨はセルビアにおいてパルチザン側が住居の家賃を滞納し続けたため、大家から迫害を受けるハメになったほど。ピッチ外のトラブルに巻き込まれたため当然、退団に至った

※3 岡崎慎司も現役終盤でのインタビューにおいて、キャリアを振り返り、日本人が多く在籍するシント=トロイデンの環境を評価し、今までムダに厳しい環境に身を置く必要はなかったと後悔する話をしていた。

第十期:J2・J3からも海外移籍(2021−)

第九期までは基本、J1からの海外移籍だったが、今や当たり前のようにJ2それどころかJ3からでも海外移籍が起きている。その大きな起点となったのは2021年の伊藤洋輝だ。

彼は2021年の夏、J2のジュビロ磐田からブンデスリーガのシュトゥットガルトへ移籍。移籍初年度から完全に主力に定着。キャリアを着実に積み、ついに2024年にバイエルン・ミュンヘンへの移籍を成し遂げた

それ以前にも下記の事例があるが、高木善朗以外はいずれも2部在籍のクラブへの移籍だった。

しかし、伊藤の場合は5大リーグのトップカテゴリーへの移籍なのでそこが大きな違いだ。

・2011年:高木善朗(J2東京ヴェルディ→オランダ・ユトレヒト)
・2013年:阿部拓馬(J2東京ヴェルディ→ドイツ2部アーヘン)
・2017年:坂井大将(J2大分トリニータ→ベルギー2部テュビズ)

この第十期は、「J1でのプレー経験のないJ2所属の選手が、いきなり5大リーグに移籍して通用する時代になった」というフェーズに移行した※。

「海外移籍はJ1で活躍してから」が常識だったが、もはやカテゴリー関係なく、例えJ2でもJ3からでも直でヨーロッパに引き抜かれ、そして活躍するフェーズに突入した。

※ 伊藤のスカウトきっかけはかつて香川真司をドルトムントにスカウトしたスヴェン・ミスリンタート氏なので、そもそもJリーグに造詣が深いスカウトだったのもある

これ以後、J2、J3からの海外移籍は以下の通り。

2021年夏:伊藤洋輝(磐田→シュトゥットガルト)、鈴木輪太朗(徳島→バレンシア)
2021年冬:勝島新之助(徳島→ジローナ)
2022年夏:渡井理己(徳島→ボアヴィスタ)、新井瑞希(東京V→ジウ・ヴィセンテ)、奥抜侃志(大宮→グルーニク・ザブジェ)
2022年冬:原輝綺(清水→グラスホッパー)、鈴木唯人(清水→ストラスブール)、鈴木惇(藤枝→スードゥヴァ)
2023年夏:松田隼風(水戸→ハノーファー)、鈴木唯人(清水→ブレンビー)、佐野航大(岡山→NEC)、行友翔哉(愛媛→ファマリカン)
2023年冬:後藤啓介(磐田→アンデルレヒト)
2024年夏:宮田和純(横浜FC→オリヴェイレンセ)、高橋友矢(横浜FC→オリヴェイレンセ)

第十一期:年齢問わず・絶対的主力でなくても海外移籍(2024−)

ラストを飾る第十一期は、タイトルの通り「日本人の実力を評価して、年齢関係なく獲得する」という、海外からの評価がとてつもなく高まった時代だ

まず年齢についての変遷は以下の通り。

・10代、20代前半の高卒でなければ海外移籍できない

 ↓

・20代半ばの大卒でも海外移籍できる

 ↓

実力ある選手なら30代近くでも海外移籍できる

というフェーズにきた。

かつて、アラサーでの実例としては下記の通り存在している。

・2003年:31歳・藤田俊哉(ジュビロ磐田→オランダ・ユトレヒト)
・2006年:29歳・宮本恒靖(ガンバ大阪→オーストリア・ザルツブルグ)
・2007年:29歳・三都主アレサンドロ(浦和レッズ→オーストリア・ザルツブルグ)

ただ、上記の彼らはクラブでやりきった選手達である。リーグ優勝のタイトルも獲り、もう残すところは海外挑戦のみという状況だった

しかし、2024年にサンフレッチェ広島の28歳大橋祐紀がイングランド2部・ブラックバーンへ衝撃の移籍をする。同じく30歳近くでの海外移籍だが、この大橋の移籍が上記前例と何が違うのか。それは以下の通り。

●タイトルを獲得していない

●日本代表経験がない(年代別代表経験すらない)

●湘南から広島に移籍してまだ半年しか在籍していない

このような状況ながら、「シーズン前半だけで二桁得点を挙げている凄いストライカーが日本にいるから獲ろう」と海外スカウトの網にかかり、移籍してしまうのは衝撃だった。

自分も2024年の大橋のプレーを現地で何度も見た上で、確かに凄まじいキレとセンスを感じ、「年齢がネックかもしれないけど海外でも絶対に通用するだろうな」と思っていたがまさか僅か半年で移籍するとは予想外だった。(しかも実際に移籍してからクラブ月間MVPを獲得したほどの活躍を成し遂げた)。

次に「絶対的主力でなくても海外移籍」について。かつては浦和レッズの相馬崇人があてはまる。

・浦和での左WBスタメンの座は三都主で、相馬は控え
・三都主が海外移籍後スタメンの座を確保も、2009年にポルトガルのマリティモへ移籍
・退路を断って浦和を退団してからの移籍で、マリティモでの年俸は僅か600万円
・東京V時代から海外志向がとても強かった →「5大リーグではなくてもいいし、年俸が大幅ダウンになってもいい。何が何でも海外移籍したい」という意向からの移籍

また、「絶対的主力ではない≒日本代表クラスではない」という意味合いで言えば、2012年、川崎フロンターレからドイツ2部ボーフムへ移籍した田坂祐介もあてはまる。

・当時の川崎は中村憲剛や稲本潤一、大島僚太ら代表クラスが所属
・彼らに比べると、田坂はそこまでの知名度もなければ日本代表経験もない。

そんな田坂が海外移籍したことで、当時は「田坂クラス」という単語がかなり飛び交った。「田坂クラスでも海外移籍できるのか」という揶揄のような意味合いである。

しかし今やこの状況も一般化した。2024年に起きた移籍は以下の通り。

・荻原拓也(浦和レッズ→クロアチア・ディナモ・ザグレブ)
・高嶺朋樹(柏レイソル→ベルギー・コルトレイク)
・大南拓磨(川崎フロンターレ→ベルギー・ルーヴェン)
・瀬古樹(川崎フロンターレ→イングランド2部・ストーク)

彼らはW杯出場経験も五輪代表出場経験もない。絶対的主力でもなく、相馬のように「海外移籍志向が極めて強く、移籍先での大幅年俸ダウンも厭わない」という状況でもなく、普通に移籍してしまうフェーズにきた。

まとめ:ふりかえりと今後の行く末

ここまで、奥寺康彦から大橋祐紀まで11期にわたり海外移籍のフェーズ移行について解説してきた。

こう見ると、年を追うごとにいかに海外移籍が活発化したのか、いかに日本サッカーが進化したことで海外からの評価も高まったかを実感できると思う。

そして同時に、Jリーグクラブとしては強化戦略の難しさが極まっている。

2010年代までは有望な高校卒を一本釣りすれば、長きにわたってクラブの主力としてタイトル獲得貢献に至る。磐田・鹿島の二強時代だ。

2020年代までは、有望な大卒を確保すれば、海外移籍の心配がないので長きにわたってクラブの主力としてタイトル獲得貢献に至る。川崎の黄金期だ。

●しかし2024年の今、大卒ですら年齢関係なく海外に引き抜かれてしまう(第八期)

●DFの選手なら大丈夫だろうと思っても引き抜かれる(第七期)

●更には準主力級として選手層の厚さに貢献してくれていた選手ですらも引き抜かれる(第十一期)

●おまけに有望な高校卒・大卒はJリーグを経由せずいきなり最初から海外挑戦してしまう(第九期)

こんなに強化戦略が難しい状況もない。しかもこの勢いは今後更に増すと予想する

例えば5大リーグ以外のオーストリアやスイスといったリーグは日本より遙かに海外移籍の数も割合も多い。

日本はJ1〜J3の60クラブで保有している全体の選手数を分母とすると、毎年夏冬合わせて約30人。まだ全体の2%程度しか移籍していない。ヨーロッパのマイナーリーグだと選手全体の10〜20%は海外移籍しているので、日本人選手のサッカーレベルが上がるにつれ、ますます海外移籍の数は加速的に増えるのは間違いない。

また、南米やアフリカの場合だと選手を売る移籍金ビジネスありきでのクラブ運営も多い。まさに選手輸出国としての在り方だ。日本も選手個々のレベルが上がり、ついにそういう立場になったのだ。

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Jリーグがスタートした1993年から僅か30年。ここまでのスピードでとりまく環境が変わったことに驚きを禁じ得ないし、デメリットも多くあるだろうが自分は日本サッカーの進化として捉えている。

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