【Qolyアンバサダーのコラムニスト、中坊コラムの中坊氏によるコラムをお届けします】

以前のコラムにおいて、現状でヨーロッパ所属日本人選手が200人を超えている件を取り上げた。トータルの多さについても驚きだが、毎年夏・冬合わせて30人近くが海外移籍している現状であり、

「いつからこんなに多くなったのか?」

「いつからJ2から直接海外移籍するようになったのか?」

「いつからJリーグを経由せず高校から直接ヨーロッパへ行くようになったのか?」

等々、ここまで海外移籍が多くなると混乱も大きいため、一度整理しておきたい。

海外移籍の様々なフェーズについて原点から時系列で振り返ることで、新たなサッカーファンにとっては過去の歴史を知る機会にしてもらい、既存のサッカーファンからすれば改めて時系列や転機を確認し、今後の日本サッカー界の行く末について推測する材料にしていただきたい。

※ なお、このコラム内での「海外移籍」は「ヨーロッパクラブへの移籍」を指す。アジアやオセアニアや南米は除いて説明する。

第2回となる今回は、以下の第五期から第八期までをお届けする。

第五期:香川真司の大活躍・ブンデスリーガで日本人大流行

第六期:シント=トロイデン

第七期:日本代表の守備陣全員が海外組に

第八期:大卒選手までも海外移籍

(前回)日本人サッカー選手「ヨーロッパ・海外移籍」の軌跡 第1回:奥寺康彦から欧州で初の“共闘”まで
https://qoly.jp/2025/02/12/lxsdgc3y-704589f4-gib-1

第五期:香川真司の大活躍・ブンデスリーガで日本人大流行(2010−)

第五期の2010年、この年は日本サッカー界にとって大きな転換の年となった。

それは2つの要因、「香川真司の大活躍」と、「日本が南アフリカW杯でベスト16へ進出したこと」である。

香川は2010年7月にドルトムントへ移籍したのだが、ここでバイエルンを抑えてのリーグ優勝を成し遂げる主力として大活躍。大ブレイクを果たしたことで“ネクスト香川”を見つけるべく、ドイツのスカウト陣の目が一気に日本人・Jリーグへ向いた。

そしてもう一つの要因、2010年南アフリカW杯。ここで日本代表は3戦全敗だろうという下馬評を覆し、GLでカメルーンとデンマークを破りベスト16へ進出する快挙を成し遂げる

2024年現在、W杯のGL突破を快挙とまで認識しないかもしれないが、あの当時は間違いなく偉業であった。地元開催ではないW杯で決勝トーナメント進出は歴史的快挙。それほどまで岡田武史監督率いる日本代表は過小評価されていた時代だった。

この2つの要因で一気に日本人がブンデスリーガに移籍。2010〜2012年の数年だけでも10人以上の日本人選手がJリーグからブンデスリーガに移籍した※1。

矢野貴章、槙野智章、内田篤人、香川真司、大津祐樹、細貝萌、岡崎慎司、宇佐美貴史、乾貴士、大前元紀、酒井宏樹、清武弘嗣、酒井高徳…。W杯ベスト16の実力を持つ国であり、香川のように大活躍する選手を、安価※2に獲得できる。その流れで一気に獲得に至った。

ブンデスリーガレジェンドに選出された偉大な選手・長谷部誠がブンデスリーガに初挑戦したのは2008年だったが、大きな転換期を作ったのは香川と日本代表のベスト16である。

※1 日本人ではないが、川崎フロンターレに所属していた北朝鮮代表FWチョン・テセまでもボーフムに移籍。

※2 ドルトムントは育成補償金のみの約4,000万円支払うだけという破格の安さでセレッソ大阪から香川真司を獲得できた。激安!

第六期:シント=トロイデン(2018−)

この第六期以降は、一気に日本サッカーに対する海外事情が動き、一年ごとに大きなフェーズが起きることとなる。2018年以降は、それほどまでの激変が起きた。

2017年11月、日本企業DMMがベルギー1部リーグ・シント=トロイデンVVの経営権を取得。DMM側は、「ベルギーリーグは日本人サッカー選手のステップアップリーグとして最適と判断した」これが経営権取得理由だと公表。

その発表内容通り、2018年以降多くの日本人選手がJリーグ、または別のヨーロッパクラブから移籍することとなった。

ベルギーリーグは実質的に外国人枠がなく、言語も英語が広く使われ、リーグのレベル自体も5大リーグよりは低いことからもまさにステップアップとして最適の位置づけ。

Jリーグからシント=トロイデンへ移籍し、更なるビッグクラブへ移籍した成功例は冨安健洋、遠藤航、最近では鈴木彩艶等が存在※1。

また、別のヨーロッパクラブから移籍するパターン、つまり加入したクラブで出場機会に恵まれず、一度シント=トロイデンでプレーして結果を出し、再度復帰する好事例としては鎌田大地、原大智等の事例が存在※2。

どちらの事例も、日本人にとっては非常に利用価値のある存在のクラブとなっている。

「まずは本国の資本が入ったクラブ(シント=トロイデン)でプレーしてヨーロッパの環境に慣れながら結果を出し、更なるステップアップを狙う」という存在のクラブを持つのはアジアにおいて日本だけ

韓国や中国では同様の立ち位置のクラブは保持していないし、カタールやサウジアラビアは資金があっても選手の実力が伴わないので成立しない。

冨安と遠藤に至ってはその後更なるステップアップでプレミアリーグのメガクラブ移籍にまで至ったが、彼らのキャリアにおいてシント=トロイデンの役割は非常に大きかったと言える。

なお、DMMグループより小規模な類似例としては、横浜FCのONODERA GROUPが経営権取得した、ポルトガル2部リーグ所属クラブ、オリヴェイレンセも存在。ここは日本人に多く門戸を開くというよりは横浜FCの選手との繋がりが強い。

※1 冨安(アビスパ福岡→シント=トロイデン→セリエA:ボローニャ)、遠藤(浦和レッズ→シント=トロイデン→ブンデスリーガ:シュトゥットガルト)、鈴木(浦和レッズ→シント=トロイデン→セリエA:パルマ)

※2 鎌田大地(ブンデスリーガ:フランクフルト→シント=トロイデン→フランクフルト復帰)、原大智(リーガ・エスパニョーラ:アラベス→シント=トロイデン→アラベス復帰)

第七期:日本代表の守備陣全員が海外組に(2019−)

第五期(2010−)のブンデスリーガ大流行時点で爆発的に海外移籍が増えたものの、GKとCBについては海外移籍が少ない状況だった

2011年アルゼンチン開催のコパ・アメリカにおいて日本が招待を受け参加を検討した際、その年は東日本大震災もありJリーグの日程上、国内組の参加が難しいことから「オール海外組編成なら参加できるのでは?」とサッカーファンの間で議論になったことがある。

その際も、以下のように組めたのだがCBのもう一人が海外在籍者不在のため、オール海外組は無理という結論だった※1。

●GK川島永嗣(リールセ)/CB吉田麻也(VVV)/SB長友佑都(チェゼーナ)、内田篤人(シャルケ)

しかし、GKを含めたDFラインの日本代表選手が全て海外組というユニットを組む時代がついにやってきた。それが2019年以降。

●GK:シュミット・ダニエル(※2025年にJ復帰)、中村航輔/CB:冨安健洋、板倉滉、町田浩樹、渡辺剛/SB:伊藤洋輝、菅原由勢、中山雄太(※2024年夏にJ復帰)

控えを含めて全員海外組。スカッドが揃う時代がやってきた。

昔からの印象論として「ヨーロッパで体格の劣る日本人がDFで挑戦しても通用しないだろう」というものがあった。

しかし、彼ら日本代表CB陣の平均身長は188cmを超え、かつての南アフリカW杯にてベスト16進出に大貢献したCBコンビ、田中マルクス闘莉王(185cm)と中澤佑二(187cm)をも超える身長に達しているし、クラブで控えではなくスタメンを確保しているのでもはやそのような印象論は過去の遺物日本人CBでも十分通用するフェーズに入った

そもそも、180cmの長谷部誠はその戦術理解度の高さから晩年はブンデスリーガでCBとしてスタメンの座を確保していたし、170cmの長友佑都に至っては対峙する195cmのイブラヒモビッチと競り合って抑え込み、セリエAにおいて完封勝利を成し遂げている※2。

体格云々関係なく海外で活躍できる上、体格まで恵まれた選手が次々に出てきているので、そうなれば日本代表の守備陣もオール海外組と化すのは当然の流れである。

※1 実際には、海外クラブ側がコパ・アメリカへの選手派遣を拒否したためオール海外組でスタメンを組めたとしても出場はできなかった。

※2 2010-11セリエA第2節 チェゼーナ 2-0 ACミラン。長友はフル出場で金星に貢献。長友は2018年ロシアW杯でもコロンビア戦でユヴェントスのクアドラードを完璧に抑え込んで交代に追い込むなど、体格差をものともしない活躍をみせたことも印象深い。

第八期:大卒選手ですら海外移籍(2021−)

第七期までは高卒選手の移籍が大半である。

かつて鹿島アントラーズ・ジュビロ磐田の二強時代だったJリーグの王道強化戦略である「有望高卒一本釣り」が段々と通用しなくなってきた。つまり、有望な高卒若手は早い段階でヨーロッパのスカウトの目に止まり、海外移籍してしまうためである。

この時代の変化にうまく適応したのが川崎フロンターレで、中村憲剛に続くような有望な大卒選手である小林悠や谷口彰悟らを生え抜きとして獲得し、チームの軸として抱え込み、クラブは黄金期を築いた。

しかし、その強化戦略が崩れたのがこの第八期である。

大卒では22歳からプロ参戦となるため、ヨーロッパのスカウトからすると年齢が高すぎるとして敬遠されてきた。つまり、大卒選手がJリーグで2,3年活躍してからだと既に25歳になり、ヨーロッパ基準からすると「年をとっている、ビッグクラブへの転売もできない」として網にかからなかった※1。

それが「優秀なら20代半ばの年齢でも問題ない」と大卒選手ですら海外移籍する時代となった。

この第八期において守田英正、三笘薫、旗手伶央と次々に大卒選手が海外移籍※2。2021〜2023年にかけて屋台骨となる選手達が移籍したことで2017〜2021年まで川崎は4度もリーグ優勝を成し遂げたが、さすがにそれ以降はリーグ優勝に至っていない※3。

もちろん川崎だけではなく、室屋成、上田綺世、伊東純也、古橋亨吾、(この時期よりだいぶ前だが)長友佑都といった日本代表の面々も大卒組として海外移籍をしている。

かつて大卒入団組はJリーグにとどまり海外移籍は事実上不可能のような状況だったのが、実力さえあれば20代半ばだろうがヨーロッパのスカウトは目をつけてくれるフェーズに入った。

選手からすればキャリアの幅が広がり、夢がある時代になったと言える

逆にJリーグクラブからすれば、強化方針がより一層難しくなったと言える

※1 もちろん、中村憲剛は30歳になってもその実力が評価されオランダのPSV、トルコのカイセリスポルから正式オファーはきていた。

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※2 同時期、ヨーロッパではないが同じく大卒の谷口彰悟までもカタールへ海外移籍。

※3 それでも川崎は2023年の天皇杯で優勝しているのはさすがである。

>>つづき「第3回:高卒・大卒の“海外直移籍”から大橋祐紀まで」

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