サポーター団体を統括する中心人物

2016年からチームを応援し続ける中島さんは豊富な応援経験により多くのサポーターから厚い信頼を勝ち得ており、「中島がいるから安心できる」という声も聞こえてくる。トラメガでの声援の先導、太鼓やスネアでの鼓舞、サブコールリーダーとしての振る舞いなど、様々な役回りをこなしている。

サポーターから頼りにされている中島さん

クラブを知ったきっかけは、スタジアムのイメージパースが描かれた記事をLINEニュースで読んだことだった。いわき市にサッカーチームが誕生するというニュースに「プロを目指すクラブができるんだ」と胸を高鳴らせた。

初めてチームを観戦した試合は中学3年の夏、2016年8月14日に開催されたFC東京との『夢に向かってともに歩もうチャリティーマッチ』だった。当時福島県2部のいわきFCは格上相手に0-2で敗戦した。

応援席の端で観ていた中島さんは「トゲがある言い方ですけど、当時の応援がすごくダサいなと感じた」。小学校低学年から首都圏のJリーグクラブのゴール裏で応援していた少年にとって、いわきサポーターのエールに物足りなさを感じたという。

「この応援をなんとかしたいと思いました」と熱い想いを抱いて県リーグ戦に通い始めた。

ただこれまで応援していたチームはプロクラブであり、地域リーグでの応援を成立させる難しさを痛感したという。「当時はJ1のクラブと単純に比べてこのチームの応援はださいと思っていましたけど、生意気というか。若気の至りがありましたね(苦笑)」と振り返った。

2017年当時県1部時代から本格的に試合に顔を出し始め、中島さんは当時ホーム試合会場だったいわきFCフィールド(現在は練習場)へと通い続けた。最初は太鼓を叩く担当となった中島さんは、次第にゴール裏が組織化されていくと2代目コールリーダーの上遠野希心(かとうの・のぞみ)さんらとともにチャントの制作に当たった。

2022年のJ3終盤に声出し応援が解禁されたが、久しぶりの声出し応援を上手く統率できなかった。「このままではいけない」と中島さんを中心にいわきのサポーターズグループ『ARMOURS』(アーマーズ)内のサポーターのエールを先導する中心団体組織としてリノラを2023年に立ち上げた。

新潟の国立大学院生の中島さん、平日は大学院で研究に励み、休日になるといわきに戻ってサポーター活動に精を出している。現在はリノラで「何でも屋をやっています(笑)」と団体の運営や応援の方針など裏方として、日々LINEなどを駆使しながら団体の活動を統括している。

応援を統率するリノラメンバー(中島さんは左端)

いわきのゴール裏は幅広い年齢層のサポーターが同居しており、老若男女を問わず歌えるチャントを作らなければならない。

「他の真似事ができない団体が新しいことはできないと個人的に思っています。既に応援として成り立っている洋楽を持ってきて、その曲をどういわきっぽく落とし込むのかにすごく気を遣っています。歌いやすさで選曲することもありますし、あまりいわきオリジナルで原曲を持って来ない意識を持って作っています」

いかに声を出しやすい安心、安全な熱狂空間をどのように作るのかという意識を絶やさず、ゴール裏で熱狂するサポーターの様子を見て、柔軟に対応しながら切れ目のない声援を実現させている。多くの子どもたちがエールを送るゴール裏は、リノラのメンバーは子供たちが退屈しないように時には遊び相手になり、プレゼントを渡すなど、保護者も安心して応援できる環境を作るために尽力している。安心して、安全に応援ができる環境を作るために日夜中島さんはゴール裏で奮闘している。

これまではチームの運営会社のいわきスポーツクラブが主導する形でサポーターや自治体をけん引してきた。近年は「自分たちはクラブに対してまだ何もやってあげられていないと思っていましたけど、最近はクラブが地域に入り込んでくれていることが一番大きいです。地域と一緒に巻き込みながら、サッカー以外の側面でいろんなことをしてくれている。いまは横並びで手を取り合ってやっているので、(サポーターとの)信頼関係がすごく強くなってきています。僕たちもクラブに何かを与えられる側になってきたのかな」と関係性が変わりつつあると明かした。

学生生活は残り1年であり、就職活動も終えた中島さんは後継者を育てようと尽力している。「個人的に引継ぎの期間に入っていると思っています。うぬぼれと言われるかもしれませんが、このまま身を引いてしまったら何もできない団体になってしまうかもしれないと思っている部分があります。いまの僕の立ち位置を引き継げる人を見つけて育てて、僕がいなくてもゴール裏が大丈夫な環境を作っていきたいです」と、クラブとの調整役、団体の統括など多岐に渡るマネジメントをこなせる人材を育てる構えだ。

熱狂的な声援を送る中島さん

人生の半分はいわきFCに尽くしてきた。今後いわきには「Jリーグクラブが60チームある中で、唯一無二のチームになってほしいですね。いわきにしかできない空気感ができつつあります。そういった文化が出来上がりつつあるので、クラブ、サポーター、スタジアムの雰囲気も唯一無二の『これがいわきだよね』という存在になってほしいですね」と笑顔で期待を寄せた。

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チームは15日(土)午後2時にジェフユナイテッド千葉をホーム・ハワイアンズスタジアムいわきで迎えてJ2開幕戦に挑む。

これまで地域リーグからJリーグへと破竹の快進撃で駆け上がってきたクラブをサポーターたちは、しっかりと支えながら歩んできた。クラブが常磐の新たな象徴となるために、サポーターたちと共に成長の歩みを着実に進めていく。

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