これまで怒とうの勢いでJリーグへとたどり着いたJ2いわきFCは、2015年12月に一般社団法人いわきスポーツクラブからクラブの運営権利を譲り受けてから10年目となった。
新体制となってから「いわき市を東北一の都市にする」「日本のフィジカルスタンダードを変える」というスローガンを掲げ、地域リーグからすさまじい勢いで上へ、上へと駆け上がった。
最先端のフィジカルトレーニングメソッド、充実した環境、優れた企画力を有するクラブスタッフ、選手の成長を伸ばす現場スタッフ、そして潜在能力に優れた選手たちの活躍が結実して新体制移行から6年目でJリーグ参入を果たした。
ただクラブの繁栄を支えた人間はチーム関係者だけではない。クラブを支え続けてきた陰の功労者であるサポーターたちにスポットライトを当てた。
(取材・構成・写真 高橋アオ)
選手も大切にする『浜を照らす光であれ』を作った男
いわきFCを2016年から応援する浜のチンピラさん(愛称)は、これまで多くの横断幕を手掛けてきた。いわきFCの陰の仕掛け人と呼ばれるほどの斬新な横断幕を世に送り出してきた浜のチンピラさんは2016年1月の新聞記事に掲載された地元いわきにサッカークラブを発足する記事を読んで「大興奮しました」と歓喜した。
これまでサッカーの応援といえば、子どもが出場する試合の応援しか経験がなかったため、応援のコミュニティは選手の親同士の間だけだったという。「地元にクラブができることで応援の括りがオープンになるじゃないですか。応援するコミュニティがすごく広がる可能性に大興奮しましたね」と当時を感慨深そうに振り返った。
看板塗装を生業とする浜のチンピラさんは、開幕戦に合わせて横断幕作りに取り掛かったという。「始まる前から1枚作っていたんですよね。(チームスローガンの)『WALK TO THE DREAM』に『together』とつけた横断幕を作ったんですよ」と明かした。
陰の仕掛け人と呼ばれる浜のチンピラさんはその後も多数の横断幕をデザイン、制作してサポーターだけでなく、チーム関係者も目を引く大作をゴール裏に掲げてきた。チームの知名度を上げる広報活動も地道に行っていた浜のチンピラさんはチームののぼり旗を独自で制作し、いわき市内の商店に掲出するなどして盛り上げに貢献した。
その中で、チーム関係者だけでなく選手たちも口にするあの言葉の生みの親となった。あるサポーターから「いわきFCはいわきだけじゃなくて、浜通り地方のチームじゃないですか。浜通り全体をテーマとする横断幕を作ってほしい」という話が出て、新横断幕の制作に取り掛かった。だが「自分の中で(そのテーマは)ハードルが高くて、これって思うワードが浮かばなくて中々作れなかったんですよ」と難航したという。
横断幕制作に思い悩む中、若手サポーターの中島さんが『BE THE LIGHT』というゲートフラッグを作っていたことに着想を得て、「光だなと思って、浜と灯台が思い浮かんで、灯台が導き照らす光のような存在になってほしい」と思いを込めて『浜を照らす光であれ』という言葉とともに、灯台の光で浜通り地方の都市名を照らす横断幕を製作した。
ただ横断幕ができた当初はいいものができたという手応えがなかったというが、チームの代表である大倉智(さとし)代表取締役が横断幕を見て「これだよな。俺たちが存在する価値はこういうことだよな」と絶賛したという。それからサポーターだけではなく、選手たちにも『浜を照らす光であれ』という言葉が浸透し、クラブにとって掛け替えのない言葉となった。
昨季も新たな大横断幕を手掛けた。いわきといえば大型温水プール、温泉、ホテルを経営する大型レジャー施設『スパリゾートハワイアンズ』やいわきを舞台とした町おこしをテーマとする映画『フラガール』が有名だ。浜のチンピラさんは映画に登場するヒロインの兄である炭鉱夫(演・豊川悦司)と実在するフラダンサーをモデルにした2種類の横断幕を制作。豊川悦司さんからも許可を得て、スタジアムのスコアボード上に掲げた。
巨大な横断幕を見た他クラブサポーターたちは「これはいわきって感じだよね」「こんな立派な横断幕を作るなんてすごすぎる」と感嘆する声が多かった。浜のチンピラさんは「熱狂空間、日常とは異なった空間を演出するお手伝いをこれからも続けたい」と、今後も「あっ」といわせる素晴らしい横断幕を制作し、熱狂空間の一助となる。