敵将をうならせた黄色の壁

粘り強い守備を見せた黄色い壁の中で誰よりも得点に飢えていた男が東風谷だった。試合開始早々のミスを仲間に救われた背番号4は「自分が(ミス)を取り返してやるぞ」と積極的にゴールを狙った。

前半11分にゲームが動いた。右サイドでボールを受けたDF和泉(いずみ)亮哉(3年-Adii iidA FCジュニアユース)がシュートモーションに入ると、すかさず東風谷は相手GKの前へ侵入。ボックス内右側から放たれた左足シュートは相手GKがこぼし、ゴール前へ詰めていた東風谷の目の前に落ちた。一時はどん底に落ちていた背番号4は倒れこみながら右足で押し込んだ。

先制点を記録したDF東風谷

「牧野がビッグセーブで止めてくれた。いつも助けられてばかりで、何か自分にできることはないかと思って必死にボールを追いかけました。徳島市立戦(2回戦)からキーパーがこぼしたところをずっと狙っていました。自分はセットプレーになったら前線に上がってゴールを狙う役割だったので、得点を取れて良かったです」と先制弾に安堵(あんど)の笑みを浮かべた。

後方から得点を見守っていた牧野は「あいつ(東風谷)が自分でヒーローになってくれた。得点を決めたのはあいつが持っているところだと思います」とクラスメイトを称えた。

その後も強固な守りで前半を無得点に抑えた上田西高は、後半21分に追加点を奪った。途中交代で入ったDF山浦琉央(りお、3年-サームFOOT BALL CLUB)のロングスローはワンバウンドしてからFW柳沢纏(まとい、3年-サームFOOT BALL CLUB)の頭上へ。背番号9はそのままジャンピングヘッドでゴール左側へ流し込んだ。

2得点を先取した長野の雄は前後半を通じて計17本ものシュートを浴びたが、息の合ったディフェンスでゴールラインを割らせなかった。東風谷と牧野はお互いに補完し合うようなプレーを披露。背番号4が交わされてシュートを打たれれば、守護神がストップ。背番号1が飛び出して空けたゴールマウスに、東風谷が決死のカバーで2度の決定機を阻止し、コンビで矢板中央高の攻撃を死守した。

空中戦でも強さを発揮したDF東風谷

試合はそのまま2-0で終了。最後まで崩れなかった黄色の壁を、敵将である矢板中央高の高橋健二監督は「むかしの矢板を観ているみたいだった」と称賛。堅守で準々決勝へと駒を進めた上田西高は、4日に流通経済大学付属柏高(千葉県代表)と対戦する。

殊勲の守護神は「日本トップクラスのフォワードや中盤の選手と、対峙できることはキーパーとしてうれしいです。だけど自分が無名だからといって、臆することなく自分のプレーを出していきたいです」と強豪校との一戦に目を輝かせた。

2得点目の直後に雄叫びを上げたGK牧野

一方の東風谷は「強豪ばかりの中で自分たちは雑草魂、チャレンジャー精神でやるしかない。周りの評価とか予想を全部ひっくり返して、自分たちが勝てるようにやっていきたいです」と下馬評を覆していく。

「二度のチーム退団」「無名校出身」 ルーキー濱名真央がつかんだ松本山雅内定に迫る

2017年度大会ではダークホースとして県勢最高成績のベスト4進出と快進撃を見せた上田西高。当時小学5年生だった現3年生たちが長野県全体の想いを背負って、県勢初の選手権優勝をつかみ取ってみせる。

(取材・文・写真 浅野凜太郎)

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