成長を口にするストライカー
この日のFC大阪は4-4-2でブロックを固め、素早い寄せと攻守の切り替えを駆使して大宮に鋭いカウンターを仕掛け続けた。それでも杉本は意に介さずプレッシャーをかわし、縦横無尽に顔を出してFC大阪の激しい攻守を掻い潜りながらチャンスを創出し続けた。
杉本は「なるべく前にはかなり強く来るのは分かっていましたし、今日も球際の部分に自分たちもかなり苦しめられた部分はありました。俺は来られたほうが好きなので『どんどん来てください』という感じで、別にそんなにプレッシャーにも感じなかった」と余裕を口にした。
これまで日本代表、J1とトップレベルで猛者たちと戦い続けただけあり、J3随一の激しいプレッシャーであっても涼しい顔でプレーし続けた。元日本代表であっても30歳を超えた名選手たちが苦戦するといわれるほどJ3は難しいディヴィジョンと各関係者が口にすることもあるが、背番号23にとっては何の問題もないようだ。
「(プレッシャーが激しい)ところで落ち着かせることによってチームメートも落ち着くと思いますし、あまり自分がバタバタしてたら影響すると思う。そういうところは落ち着いてプレーしようと思っていました」と頼もしさがあった。
現代サッカーはポジションの概念にとらわれず、様々な役割を求められる。例えばズラタン・イブラヒモビッチ、オリヴィエ・ジルー、日本人選手なら大迫勇也や鈴木優磨のようにゴール前でのフィニッシュ以外に、ポスト、フリック、位置を下げての展開、自陣ゴール前での守備などのプレーを高水準にこなす。マルチタスクが求められる現代サッカーにおいて、この試合で見せた杉本のパフォーマンスは上記した名選手たちと通ずるものがある。
杉本はセレッソ大阪U-18時代にチーム事情により急造センターバックとしてクラブユース選手権に出場してMVPを獲得し、この活躍を受けてセンターバックとしてU-18日本代表に選出されるほど、異なるポジションでも実力を発揮できる才能を持っている。今季の大宮ではトップ下ポジションでさまざまなタスクを器用にこなす攻守の核として君臨している。
この日は前線ではフィニッシュ、ポストプレー、中盤はロングパスの展開やサイドへ開いたドリブル、後方ではビルドアップ参加にセットプレーでの空中戦などさまざまな局面でチームを助けた。
杉本は「結構相手もラフに蹴ってくるというか、ほとんど試合を見てても蹴ってくるチームだった。跳ね返すというところと、後ろ3枚が中心になって跳ね返していくところと、セカンドボールを拾う。あとは自分たちのビルドアップのときに、なるべく(石川)俊輝とアル(トゥール・シルバ)のサポートをする。可変をしてもいいですし、自分が下がっても『そこを助けてあげてくれ』ということは言われた。いいところもありましたし、もう少し自分自身うまくできたのかなと思うのでそこは本当に修正というか反省して…。経験というかまた1つ成長できたのではないかと思います」とマルチタスクの中で得た手応えを笑顔で口にした。
【インタビュー】タビナス・ジェファーソンが語る争奪戦となった高校時代、刺激を受けた同期、水戸での経験
近年ではJ1やJ2で華々しい活躍をファンに魅せられていなかったが、新天地・大宮でその才能と実力を発揮してチームを上昇気流に乗せている。31歳とベテランの域に入った長身ストライカーは新たな境地に達しようとしている。進化するJ3最強の万能アタッカーの進化を追い続けたい。