遅効性の猛毒パウサ
なぜリズム、ポジショニングなど日本の生命線といえる根幹要素が狂わされたのだろうか。それは韓国の2選手が使った個人戦術の術中にハマったため、主導権を奪われたように見えた。
韓国は日本と同じ4-2-3-1のフォーメーションを採用し、ミラーマッチを呈する形となっていた。サイドの突破力、推進力でいえば日本が上回っていた。左サイドの佐藤、右サイドJ1鹿島アントラーズMF松村優太とスピードあふれる選手が揃っていたからだ。
確かに序盤はその優位性を生かせることができた。だが韓国のトップ下に入ったイ、左ボランチに入ったMFペク・スンホの“パウサ”に翻ろうされる形で日本はテンポ、プレースピード、ポジショニングを乱されたように見える。
韓国が使ったパウサとは何か。パウサはスペイン語で「小休止、中断、休憩」という意味であり、スペインサッカーで用いられるプレー概念だ。意図的にプレースピードをローテンポにすることにより、相手のリズムを狂わせたり、ポジショニングに歪みを発生させる。
スペインのアカデミー時代からパウサが血肉となっているバレンシア下部組織出身のイとバルセロナアカデミー出身のペクの手のひらの上で踊らされる形となった。
まずトップ下のイがゆっくりとボールを受け、相手をかわしながらボールを上手く運ぶ。当然スローテンポのイは日本にとって格好の獲物となるため、激しいプレッシングが集中する。するとイは無理と判断すれば、ペクにバックパスで戻して、再びボールを受ければローテンポのプレーを再開する。この一連のシーンが前半15分以降に多く見られた。
まるで怒れる闘牛をいなしてかわす闘牛士のように、日本の激しいプレッシャーをことごとく外す。徐々にであるが、イを追いかけていた選手たちのポジショニングが前傾となり、選手たちの位置取りが歪み始めた。
さらに右ボランチのベルギー1部ヘントMFホン・ヒョンソクが鋭い楔のパスを入れると韓国は一気にプレースピードを上げた。スローテンポに慣れた日本は攻守の切り替えが遅れて後手後手の守勢に追い込まれた。
もちろんパウサだけで日本が劣勢になったわけではないが、日本が追い込まれる主な原因となったと思う。遅効性の猛毒のようにテンポ、プレースピード、ポジショニングが狂わされた日本は成す術なく敗れ去ってしまった。