異なる2度のJ1昇格とクラブ独自のゲームモデル

徳島はこれまで2度のJ1昇格を経験している。2度とも1年でJ2降格を喫しているが、クラブとしての取り組み方は全く異なっている。

2013年にJ2・4位で『J1昇格プレーオフ』を制した年のチームは、“昇格請負人”小林伸二監督(現・ギラヴァンツ北九州スポーツディレクター)、DF千代反田充、アレックス、MF柴崎晃誠(サンフレッチェ広島)といったベテランや実力者を補強したチームだった。兎にも角にもJ1昇格が至上命題だった当時のクラブ事情として必然だった。

対して、J2を制して2度目のJ1昇格を勝ち取った2020年は、スペイン人のリカルド・ロドリゲス監督体制が成熟の4年目を迎えていた。

立ち位置の変化によって数的・位置的・質的(個の能力)な優位性を活かすスペイン流のポジショナルプレーの枠組みが浸透し、それを現代サッカーの「ハイライン+ハイプレス+ハイテンポ」の中で集団として披露できる、機能美が見てとれるチームだった。

ロドリゲス監督の指導で大きな成長を遂げたDF大崎玲央(ヴィッセル神戸)、広瀬陸斗(鹿島アントラーズ)、馬渡和彰(浦和レッズ)、FW渡大生(アビスパ福岡)、山崎凌吾(京都サンガ)らは軒並みJ1クラブへと“個人昇格”していくなど、チームを離れた選手も多かった。

ただ、ロドリゲス監督自身がスポーツディレクターなど強化スタッフとしての経験も豊富で、そこに深い理解を示す育成型指導者だったことが大きかった。柿谷曜一朗(名古屋グランパス)が2009年から2年半プレーした頃に指揮を執った美濃部直彦氏(現・飛鳥FC監督)も同タイプだった。

徳島は半ば強制的に世代交代が起きる新陳代謝の早いクラブだが、確固たるゲームモデルを定着させることで、個人戦術や戦術眼が養えるチームとなった。J1クラブに所属する有力な若手選手たちが武者修行先として「1年間プレーしてみたいチーム」となっていることで、加入する選手の質も年々上がっている。