「デコイアンカー」としてのキミッヒ抜擢

直近2試合におけるドイツ代表のフォーメーションはいずれも4-1-4-1であった。

ビルドアップ時には今回も例に漏れず、並びが変化する可変型システムを用いるが、基本陣形はアンカーポジションにワールドカップでは右サイドバックで起用されていたヨシュア・キミッヒを置き、クロースをインサイドハーフへ回した形となっている。

そして、このキミッヒとクロースの位置関係が非常に面白く、レーフが練る新戦術が垣間見えた箇所だ。

「ビルドアップ時にポジショニングが変化する」という特徴はこれまでと変わらないが、その変化形にバリエーションが加わったのである。

まず、DFラインがボールを保持してビルドアップする際、両サイドバックを高い位置に上げ(若干この両サイドバックの位置取りにも変化が見られるが、今回は割愛する)、センターバックとボランチが攻撃の起点となることには変わりはない。

しかし、クロースの位置取りはこれまでのセンターバックの間ではなく、センターバックの横側へと変わった。

この考えは現在のサッカー界においては決して珍しいものではなく、採用しているチームは少なくない。ペップ・グアルディオラのマンチェスター・シティがその代表格で、ジネディーヌ・ジダン政権下のマドリーでも度々見られたものだ。近代フットボールの教科書とも呼べる「ポジショナルプレー」の概念に沿ったものである。

だが、新生ドイツ代表では、ここに一つの味付けがなされている。それはキミッヒのポジショニングだ。

基本的に彼は、クロースを追加した3人のDFラインとの頂点に位置し、ダイアモンドの陣形を取る。ここまでは、ポジショナルプレーの原則に沿っているわけだが、彼のここでのメインタスクが目を引いた。

それは、相手のファーストディフェンダーに該当する選手の意識を自分に集めさせる、「おとり=デコイ」としての役割も兼ねたアンカーのような立ち回りをしきりに見せたためだ。

特にフランスとの試合では顕著に見られた。

フランスは、基本陣形は4-2-3-1であるが、守備時はオリヴィエ・ジルーとアントワーヌ・グリーズマンがファーストディフェンダーとなる4-4-2に変化するのが特徴的。この試合でも、ドイツのビルドアップに彼らが最前線から網を張ってきたのだが、ここでキミッヒが取ったポジショニングは、この二人を牽制するような意図が感じられるものばかりあった。

「自分がボールをもらいにいくことよりも、後方の三人、特にクロースがプレッシャーの掛かりにくい状態でボールを保持することを優先した動き」とも表現できるだろう。

このメカニズムが即興で生まれたものか、はたまた実験的にトライしたものかの判断は今後の動向を注視する必要があるが、少なくともこれまでのドイツ代表ではあまり見られなかったものであることは間違いない。

そして、このキミッヒの工夫によりクロースは自由にボールを触る時間を手にし、主体的な攻撃に幾度となく成功したことも事実だ。

ちなみに、この試合ではフランスがこのドイツの新戦術に対して対応策を試合途中に施し、さらにまたドイツが変化を加えるという流れも非常に興味深いものであったが、その件はまた機会があれば触れてみたい。